I went mad.



ぐう、と虎徹の喉が唸ったが、バーナビーの手の力は緩まなかった。もう少しで骨が折れる一歩手前の力で虎徹の喉を絞め続ける。虎徹は何事かを喋ろうとするが声にはならないまま、何かを訴えている。虎徹の爪が喉を締める手を引っ掻くが、バーナビーはひたすら締め続けた。その内力の入らなくなってきたのか、虎徹の手はバーナビーの手に触れるだけになってしまった。顔色はどす黒いような色合いになってしまっていて、唇の端からは唾液が垂れている。ただそれでも、虎徹の瞳は優しいままだった。
静かに閉じていく金の瞳を見て、はっと気付いた。慌てて手を離すと、虎徹は急激に入った酸素に咳き込んだ。

「ああ…ああ…お、じさ、」

弱弱しい声で虎徹を呼ぶが、ひゅう、と呼吸をする音だけがバーナビーの耳に届く。ゆっくりと開いた金色にほっとするが、虚ろな瞳はバーナビーをぼんやりと見つめるだけだ。バーナビーは唐突に虎徹を失う恐怖に襲われた。そして同時に罪悪感に捕らわれる。漠然としたような恐怖の渦に意識を持っていかれ、ぐるぐるとした眩暈にふらつく。虎徹の喉を締め付けていた手は今は力を失ったようにベッドに落ち、バーナビーの瞳からはぼろぼろと涙が零れた。最早言葉さえ発せなくなった喉から漏れるのは言葉にはならない奇声だけだった。
虎徹はぼんやりとその様を見ていて、ようやく咳の止まった頃、まるで子供のように泣くバーナビーの手を、力の入らない腕を伸ばして握り締めた。びくりと震えた手をゆっくりと引き、体重をあまり感じない程度に倒れこんだバーナビーを抱き寄せた。



はっと目が覚めると、いつもと同じ天井が目に入った。ぼうっとその天井を見つめ、あれは夢だったのかと小さく嘆息した。ゆっくりと起き上がり、ベッドヘッドに置いてある眼鏡を掛ける。なぜあのような夢を見たのか、バーナビーはこめかみを押さえて立ち上がった。ふと、ベッドの下に落ちているものが目に入る。瞬きを一回、屈んでそれを持ち上げると、それは見慣れたネクタイだった。
優しくてお節介で子供のように無垢で虎のような金の瞳が魅力的な、彼の、

「…あ、ああああああ、」

先ほどまでバーナビーが寝ていたベッドを肩越しに振り返ると、ネクタイの持ち主である彼がいた。喉には、見覚えのある痕が、そこには存在した。




I went mad.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -