寝不足


「榎本、大丈夫?」
「う〜ん…」

心配そうに聞いてくる小栗に対し、俺は机に突っ伏したまま唸った。

結局、夜中シャワーを浴びた後すぐにベッドに入ったが、ソファで寝てしまったためか悪夢を見たせいか全く眠ることが出来ずに夜が明けてしまった。全身が怠く、頭痛もまだ続いていて、俺は睡眠の大切さを痛感する。重い身体を引きずって1時間目を受けたものの、次の授業が俺の苦手な先生であることも相まって保健室に行って寝たい欲が高まって来た。

「うわ、熱っ!これ絶対熱あるよ」

俺の首元に手を当てた小栗が驚いたようにそう言う。言われてみれば熱っぽいし小栗の手は冷たくて気持ちいい。

「…保健室行こうかなあ…」
「そうしたほうがいいよ。俺もついてく」
「え、いいよ。もうすぐ2時間目始まっちゃうし」

突っ伏していた顔を起こし霞む目を擦りながらそう言うが、小栗はまるで聞いていないようで隣の席のクラスメイトに「榎本保健室に連れて行くわ」と伝えている。

「ほら、行こう」

俺の腕を掴んだ小栗に引っ張られながら、俺は賑わう教室を出た。




「そういえば同室者の彼風紀に入るんだって?」
「あー、それね…」

相変わらず情報が早いな、と俺は小栗に感心する。俺が律に一緒に登校しようと提案した日から、実は一度も一緒に登校したことはない。というのも律は本当に朝が苦手らしく、俺が小栗と部屋を出発する時間に起きてくれないのだ。当然小栗と律は会ったことがない。

「あ、話すのしんどい?」
「いや、大丈夫」


小栗と肩を並べ廊下を歩く。もうすぐチャイムが鳴ると言うのに廊下にはお喋りをしている生徒が多い。具合が悪いせいで楽しそうに喋っている人たちがなんだか恨めしい。体調がいいときはそんなこと思わないのに。

「喧嘩強いひと入ってくれると嬉しいよね。みんな怖がってくれて抑止力にもなるし」

小栗がお気楽そうにそう言う。
――喧嘩、か。そういえば夜手当させてくれなかったあの顔の傷、また喧嘩でもして殴られたのだろうか。え、でもどこで?まさか街に下りた、とか。

気怠そうに俺を見下ろしていた律の姿をぼんやりと思い出していたが、小栗の視線で我に返る。

「…でも律、風紀入る気なさそうだよ」
「え、そうなの?」
「うん。委員長が勝手に手続きしたらしくてめっちゃ怒ってた。しかもさ、委員長は律に俺の護衛をするために入ってほしいんだって。それでなんか気まずいんだよね律と」
「まじか〜」

小栗は垂れた目を見開いてびっくりしている。言っちゃえば俺を護衛する必要がなくなれば律は風紀に入らなくていいわけだ。そう考えると律に申し訳ないしちょっと気まずい。

「たしかに碓氷くん榎本の同室者だし喧嘩強そうだし適任っちゃ適任だよね」
「…そう?」
「まあ榎本からしたら適任とか言えないか」

自分で言った言葉が面白かったらしく小栗は笑う。あー、完全他人事だと思ってるな。

「小栗はいつもお気楽そうでいいよな」
「え〜失礼な。俺だって悩み色々抱えてるんだよ」
「例えば?」
「夏アニメが豊作すぎて何見るか選べない」

真剣な表情でそう言った小栗に、はあ、と俺はため息をつく。それを見て小栗は慌てたように「冗談だよ」と続けた。

「でも碓氷くんなんでそんなに風紀入りたくないんだろうね」
「さあ…まあ委員会入ると自分の時間減るからね。それが嫌とか」
「確かにそれはあるね。ゲームする時間減るし」

あー、はやく帰ってゲームの続きしたい、と小栗が呟くのを横目で見る。小栗は俗に言うオタクで、暇さえあればゲームとアニメ観賞に勤しんでいる。趣味に日々忙しそうな小栗が俺はひそかに羨ましかったりする。俺も結構ゲームは好きな方だが、一度ハマると日常生活に支障をきたす程にのめりこんでしまうタイプなので最近は自制している。

「…最近はどういうのやってんの?」
「ホラー系だよ。追ってくる殺人鬼から逃げるやつ。あ、榎本もやる?やり方教えてあげるよ」
「いや、いい。遠慮しとく」
俺はかぶりを振る。

「そう?楽しいのに」

俺の返答に小栗はがっかりしたように肩をすくめる。俺は怖い話もホラー映画もホラーゲームも苦手だ。あとジェットコースターも。決してビビりという訳ではない。

「…さて。先生いるかね」

俺たちのクラスから保健室は割と近いのでもう着いてしまった。と同時に、2時間目が始まるチャイムが鳴った。次の授業を受けなくてよくなり気が楽になったせいか頭痛がだいぶ治まってきた気がする。失礼しまーす、と小栗が保健室の扉を開け俺は後に続いて中に入った。




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