夜中


あたりを見回し、自分が夕食後ソファでいつのまにか寝ていたことを理解する。つけていたはずのテレビは消されていた。全身に汗をかいていて、気持ち悪い。頭がジンジンと脈打つように痛み、俺は手で頭を押さえた。部屋の時計を見ると、時刻は夜中の1時を過ぎていた。ソファでこんなに寝てしまったのは久しぶりだ。
目の前に立っている律は、制服ではなく何故か私服を着ていて別人のようだった。そして、顔には見覚えのない傷。

「魘されてたけど、嫌な夢でも見てたのか?」

律に窺うようにそう聞かれ、俺は「…うん」と小さく答える。喉がカラカラに乾いて声が出しづらい。立ち上がって冷蔵庫の前まで行き、水を取り出す。ついでに頭痛薬も飲んでしまおう。

「律はこんな時間までどこ行ってたの?いま帰ってきたんでしょ?」

薬を取りに行くために自室に向かうが、後ろから律の返事は返ってこない。薬を持って共有スペースに戻ると、律は洗面所にいるようだった。俺は薬を口に入れてコップに入れた水を一気に飲む。コップを洗っていると律が戻ってきた。

「風呂入る?」
「あ、うん、入っていい?」
「おー。じゃ俺はもう寝る」

律はどこか気怠そうな雰囲気を纏って俺を静かな双眸で見下ろしている。そして自室に向かおうと大きな背中をこちらに向けた。
…あ、行っちゃう。俺は悪夢を見たせいか、妙に心がざわついていた。1人になるのが怖くてつい律の腕を掴み引き止めてしまう。

「…朝?」
律は唖然とした顔で俺を見る。

「…顔、痛そう」
「は?」
「怪我してるじゃん」
「…ああ」
律は思い出したように自分の顔を触る。頬が赤く腫れている。触ったせいで痛んだのか律は目を細める。

「手当てしてあげるよ」

もう少しだけ会話がしたい。いや、会話しなくてもいいから一緒にいてほしい。

「…別にいい」

しかし律は俺の手から離れ自室に入ってしまった。静かな部屋にバタン、と扉が閉まる音が響く。俺は律の腕を掴んでいた手を眺めながら扉の前で立ち尽くす。

「律。委員会のことだけど…、俺は出来れば律に風紀入って欲しいよ。俺の護衛はしなくていいけど。律が風紀入ったら…楽しいと思うから」

扉の向こうにいる律にそう話しかけるが、返事は返ってこない。しばらく扉の前で返事を待っていたが、頭痛が治るどころか激しくなってきて俺は扉の前から退いた。
…さっさとシャワー浴びて寝ないと。

熱いシャワーを頭から浴びながら、俺は先程見たばかりの悪夢のことを考えていた。小夜の夢を見たのは久しぶりだ。きっと芦名くんに出会ったからだろう。小夜は中学生にも、高校生にもなることなく死んだが、きっと生きていたら芦名くんを女性にしたような姿に成長していたに違いない。キラキラした女子高生になって、美人だったからきっとすぐ彼氏が出来て、友達もたくさん出来て色んな経験をして…。

俺は妹を失ってから、後悔という感情に囚われ続けている。今生きているこの現実は悪い夢なんじゃないかと、何回も何回も思ったがこれが現実だと、夢じゃないと思い知らされる度に絶望している。あまりに辛すぎて妹を恨めしく思ってしまう時もある。そんな自分に嫌悪して、また後悔する。

俺はシャワーを止めて、風呂場から出た。タオルで髪と体を拭き下着を着る。ドライヤーで髪を乾かして、歯を磨く。
どんなに辛くても、俺は生きなきゃいけない。小夜から奪われた生を俺が自ら投げ捨てることは許されない。俺は泉くんのお父さんが与えてくれたこの学園で息をし続けなければいけない。







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