悪夢


部屋に入ると、室内は暗く静かだった。
律は風紀委員室を出て行ってからまだ帰ってきていないらしい。空腹を感じ、冷蔵庫の中を物色する。何か作るのも面倒で、今日は冷凍のチャーハンにしようと冷凍庫を開けた。皿に入れて、レンジで温める。温め終わるのを待っている間にスマホをチェックするが、委員長からも芦名くんからも連絡は来ていなかった。

…なんか今日は疲れたな。
スマホを置き、キッチンの壁に寄りかかってぼーっとする。芦名くんの顔がふと頭に浮かんだ。今はどこにいるんだろう。部屋に戻れただろうか。保健室まで行って確認したい衝動に駆られたが、ピー、ピー、と鳴ったレンジの音で思考が断ち切られる。火傷しないように皿を慎重に持って、テーブルに置く。いただきます、と小さく言って一口目を口に入れた。…最近の冷凍食品ってほんと美味しいな。
痛いほどの静寂の中でご飯を食べるのは少し前まで当たり前だったのに、今じゃ寂しさを感じてしまう。テレビをつけるとバラエティ番組がやっていたが何となく気分ではなく、ニュース番組に変えた。アナウンサーがニュースを読み上げる声が部屋に響き、少しホッとする。

チャーハンを食べ終え、少し物足りなさを感じながらも夕食をおしまいにする。後片付けをして、ソファに座る。風紀委員室のソファに比べたら全然だけど、金持ち校なだけあって座り心地がいい。
律と連絡先を交換していたことを思い出して、スマホを手に取る。「夕飯もう食べちゃったよ」とだけメッセージを送った。しばらくその画面を眺めていたが、"既読"の文字はつかなかった。何してるんだろう。
空腹を満たしたからか眠気が襲ってきて、俺は抗えずに目を閉じる。誘われるままに、俺は眠りに落ちた。





俺は夢を見た。

「お兄ちゃん」

あどけない笑顔を浮かべて、小さな小夜が俺の後をついてくる。俺が公園や友達の家、学校、どこへ行っても、小夜は俺の後をついてくる。俺は小夜から逃げるように走り続ける。

「なんで逃げるの?」

小夜の小さな手が、後ろから俺の服をグイッと掴んだ。俺はその途端身体が硬直し前へ進めなくなる。恐る恐る後ろを向くと小さな小夜が俺をじっと見上げていた。溢れそうなほど大きくて無垢な瞳。綺麗な黒髪を2つに結んだ小夜は、その赤い頬を膨らませている。

「小夜とも遊んでよ」

小夜はシクシクと泣き始めた。俺は胸が押し潰されたように苦しくなる。小夜を抱きしめようと手を伸ばす。

「ごめん。ごめん小夜」
「お兄ちゃん」

突然、背後から女の声で呼ばれた。振り向くと、そこには高校生くらいに成長した小夜が立っていた。

「お兄ちゃんのせいだよ」

成長した小夜の腕が伸びて、俺の首を絞めた。その手は死んでいる人間のもので酷く冷たい。徐々に力を入れられ、俺は苦しさに喘ぐ。

「お兄ちゃんのせいで小夜は死んだんだよ」
「――おい!」


身体を揺さぶられる感覚がして、俺はバチッと目を開けた。え、いま朝?寝坊した?と慌てふためくが、「落ち着け」と誰かに言われ上半身を起こす。目の前には、怪訝な顔をしてこちらを見る律がいた。


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