晋彦は慣れた手つきで煙草に火を着ける。一瞬、暗いリビングに小さな明かりが灯った。深く煙を吸い込み、大きく吐き出す。少々特殊な職種の彼は常に気を張っているのだ。ストレスも大いに溜まる。尤も周囲の誰もその事には気が付いていないのだが。その原因は彼の纏う気だるげな空気であり、そこはかとない“俺様”な言動であったりする。彼自身誰かに気を遣われるのは慣れていないのだから全く問題は無い。
 三日ぶりの自宅のソファに体を埋めていると、扉を開く音が響き反射的に顔を上げる。
 そこに立っていたのは、彼の同居人である守宮涼華(もりみやすずか)であった。先日十九歳の誕生日を迎えたと言うのにどこか幼い彼女は、大きな目を更に大きく見開いている。だがそれも束の間で、直ぐに満面の笑みを浮かべると晋彦の座るソファへと駆け寄った。

「お帰りなさい! お腹空いてない? 何か作ろうか? それとも」
「食ってきたからいらねえ。もう寝る」

 涼華の言葉を遮り、煙草を灰皿に押し付ける。それは気を遣われる事に対する居心地の悪さと僅かながらの照れ隠しであった。
 自室に戻る為立ち上がろうとしていた晋彦の腰に、涼華が慌てて抱きついた。晋彦の眉間にしわが寄り、いぶかしむ低い声が落ちる。それを気にせず涼華は腕の力を強めた。

「晋彦さんストップ! あと二分待って!」

 彼は振り払う事も出来たが、涼華の真剣な声音を受け抵抗せずソファに座り直す。しんと静まった部屋に時計の秒針の音がだけ響いた。

「さん、にい、いちっ! 二十七回目の誕生日、おめでとうございます!」

 晋彦は目の前で手を叩く涼華に珍しく間抜けた表情を浮かべている。それもほんの僅かな時間で直ぐに憮然とし腕を組んだ。低く、「誰から聞いた」と尋ねれば「班長さんから」と彼の予想通りの答えが返ってくる。涼華を押し付けた犯人であり、数々の伝説を現在進行形で築き上げ続けている上司の顔を思い浮かべ、彼は眉間を押さえた。

「晋彦さん、あの」「寝る」

 再び涼華の言葉を遮り、今度こそ立ち上がるとドアノブに手を掛けた。一瞬動きを止め、涼華に顔を向ける。

「起きたら存分に祝って貰うから覚悟しとけ」

 にやり、と言う擬音がよく似合う笑顔で告げると静かにドアを開けた。
 間を置かずに涼華の跳ねるような返事がその背に弾けた。



end

昔考えた現代アクションファンタジーより。
三人称の練習。そしてこっぱずかしい話の練習。


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