「いつまで泣いてるの」ずっと。「機嫌直してよ」誰のせいだと思ってる?「ごめんね」

外は土砂降りの雨で部屋の中に居るものの、何故か寒い。目尻から溢れ出す涙は止まらなくて、かれこれ一時間は泣き続けている。情けないと思うし、若人くんに迷惑掛けているのは分かるけれどそれでも泣き止むなんて出来なかった。やっと落ち着いたと思えば、あの光景が蘇って再び涙の洪水だ。そんな僕を抱き締める若人くんの腕は緩む様子も無かった。最初は抵抗した温もりに、今は恋しいだなんて都合の良いやつなんて思うんだろうか。若人くんのベッドに座って、後ろから抱き締められて背が温かくなるに反比例して部屋の中は雨の湿気でじめじめとしているのに寒く感じる。梅雨入りも、陽が傾けば寒くなるのか。

「…ごめん、て」
「う、そ」
「嘘じゃない」

最早泣きすぎて頭の中は酸欠状態でうまく言葉が見つからないし、謝ってばかりいる若人くんの言葉を返すのも難しくなってきた。そもそも事の発端は何だったかさえも分からなくなってきて、嗚咽の間に一息吐けば、それを聞いた若人くんは溜息を一つ洩らした。背に在る温もりが離れるのが怖かった。

「ねえ、洋平。俺、嘘吐いた事ある?」
「…ない」
「じゃあ、俺が洋平以外に好きな子いると思う?」
「……わかん、ない」
「洋平のバカ」

淡々とした言葉の遣り取りに何時しか涙は止まっていて、若人くんに叩かれた頭が痛い。先程よりも確実に抱き締めている腕の力は強くなっていて息苦しささえ感じた。

「…、そんなに信用無いかなあ」

再び、涙が止まらなくなった。その言葉に小首を横に振ったら今度は優しく頭を撫でてくれて耳許に柔い唇でキスを落とされた。こうして悩んで、迷惑掛けているのも、全て若人くんがいるからであって、流す涙も意味が無いものでは無いと気付かされた。そうしている内に何時間もこうしてぐずぐずしているのもバカらしくなってくる。元凶は若人くんだとしても、バカなのはお互い様でそんな空気を一蹴できたらどれだけ楽だろうと思った。涙を手の甲で拭い、腰に回されている若人くんの腕を無理矢理解いて立ち上がった。くるり、と身体を反転させて若人くんと久し振りに視線を交わらせた。ほんの数時間眼を見なかっただけでこんなに懐かしいものだとは思わなかった。それ故に愛しさが増すから不思議なものだ。

「キスしてくれたら、許す」
「…仰せのままに」

重なった唇からは温もりが伝わって、先程まで流した涙とはまた違う涙が頬を伝いそうになるも双眸を固く閉じてそれを呑み込んだ。触れるだけの口付けに物足りなさを感じて、唇を阻む空気を押し退けて今度は僕から唇を押し付けたら、肩を掴まれて酸素が欲しくなるまで唇を離してはくれなかった。肩で息をする僕に「好きだ」と耳許で震わせた若人くんの声は甘ったるくて酷く酔いそうになった。



(ただの強がりだった)(君に僕は要らないなんて思っていたから)