@神尾+伊武(友情)



何気なく通るいつもの帰宅路がどこか新鮮だ。いつの間にか中学校生活の折り返し地点のこの時期に、俺は一つ歳をとった。部活も世代交代をして、副部長を務めている。無論、部長は神尾だ。陽はすっかり沈んでいて、流石に11月は冷える。すっかり冷たくなった手の平を学ランのポケットへと突っ込んだ。隣には神尾の姿が在って、呑気に鼻唄を洩らしていた。
昨日誕生日を迎えて、誕生パーティが翌日、つまり今日行われた(内村と合同だったけど)。引退した橘さんも来てくれたし、こんなに盛大に祝われた経験は無かったからか不覚にも胸が踊った。クールを装ったつもりだったのに神尾には嬉しいんだろ、と言われたりで本当は嬉しかったんだと思う。ふと隣に視線を映せば見覚えのあるヘッドホンを首に掛けていた。あ、と声を洩らしたところで視線がかち合う。すると神尾はニカと笑ってヘッドホンを指差した。(嗚呼、)

「分かった?これ、深司がくれたヤツ」
「…うん。使っててくれたんだ、神尾の事じゃプレゼントなんてそっちのけだと思ってたけど、…あ、でも嬉しいな。妙に馴染んでるのは俺のセンスが良いからだろうな」
「深司!」

満更じゃなさそうに笑う神尾は何故か眩しかった。かという俺もきっと笑っているんだろう。そう思ったらいつもの俺じゃないみたいで、可笑しくて笑った。

「…俺、深司とテニスやれて良かったなーって思った」
「いきなり何?」
「良いから良いから!でさー、俺部長じゃん?正直言えば、自信無かったんだけど、」

神尾は寒いのか鼻の先をうっすらと赤くして肩先を竦めた。開いては閉じる唇がもどかしくて思わず、双眸を細めて彼を一瞥すると彼は一息吐く。指先でヘッドホンに繋がるコードを弄り、詰まらせた言葉を続けた。それを余りにも簡単に言うものだから、俺は拍子抜けした。正確に言えば、驚いた。

「深司がいてくれて良かった!」

ぽっかりと空いていた胸が、何かに満たされた。(必要としてくれているんだ、)

「だから、うん。なんつーかな、…誕生日おめでとう」
「…ありがと」

足取りまで軽くなってきて、神尾のヘッドホンから微かに聴こえてくるリズムを刻む音色に気持ちが高揚する。何と言葉を返したら良いのかも分からずに考える素振りを見せるも、それは止めた。考えるまでのものじゃない。俺達は何のためにここまで頑張って来たんだ?(その答えはもう、)

「なあ、神尾」
「んー?」
「来年こそは、俺達で全国勝とうな」
「…おう!当たり前だろ!」

背中に感じるラケットの重さに口角を緩ませて、神尾の言葉に頷いた。こうやっていられるのも、あと一年しか無いんだ。嘘のように早く巡る季節は止まってはくれないし、テニスコートに立てる時間もそう長くはない。俺はこんなにも仲間に恵まれている。そう考えたら嬉しくて、明日からの部活が余計に楽しみになった。今は仲間に、多大な感謝を。


(仲間がいる安心感に、心は軽くなった)



伊武深司 happy birthday!
20111103

くろふーど。様へ提出。