手の中にある手紙を一瞥する。そこには女の子らしい字体で「若人くんへ」と書かれていて、無数のハートマークが散らばっている。そして何度目か分からない溜息を吐き出した。今月に入って女の子からラブレターを貰ったのは五回目。でもそれは全て若人くんに渡してください!といった、郵便配達員みたいな僕宛てじゃないもの。そうしていつもここで思い止まる。そのまま若人くんにこれを渡してしまうのか、捨てて何もなかったことにするのか。渡したとしても若人くんは目を通すだけで、直接返事を言ったことが無いのも知ってる。

「アレ、洋平なにしてんの?」
「ん?…ああ浩平か」
「まーた若人くんへのラブレター受け取ってんの?お人好しすぎ」

浩平は僕の気持ちには気付いている。つい昨夜この話をしたばっかりで、よくラブレターを当本人に渡せるね、だなんて痛いところを突っ込まれた。

「…うん。手紙貰う時の、若人くんの笑顔が好きだから」
「うわー…健気。だけど泣くのは勘弁してよ?」

我ながらに苦笑が洩れる位の言葉に、小さく溜息を吐いた。そろそろ僕も限界かもしれない。掌に在る手紙にもう一度視線を戻すと、今回に限っては破りたい衝動に駆られた。でもそれをしたら、さっきの女の子に悪いし、若人くんにそれを知られたら誤魔化しようもない。暫くその手紙を見つめていると、誰かがその手紙を手に取った。視線の端にはオレンジ。

「若人くん?」
「ね、洋平。次から手紙、受け取らなくて良いよ」
「え?」

若人くんはその手紙を乱暴にポケットに入れて、僕の頭に掌を乗せて、柔く撫でられる。心臓の音が、暴れた。

「…そろそろ、洋平の気持ち聞かせてくれたってイイんじゃない?」

目の前が、滲んだ。