*ジュニア選抜



ああ、もう眠れない。
昼間はテニスで身体を動かして夕飯もばっちり食べて、就寝時間よりも早めに布団に潜ったら、空がほんのり明るくなった時間に起きてしまった。こんな時間に起きるのは滅多に無い。小さく欠伸を洩らしたら、どこからか足音が聞こえた。まだ時刻は4時前、そしてここは自販機が機械音を唸らせているロビーだ。少しだけ恐怖心が沸き、音のした方へとゆっくりと顔を向ける。…あ。

「あれ、」
「…千石くん?」

同じ淡いブルーのウェアで歩いてきたのは、梶本くんだった。紫色の瞳は俺を捉えて、不思議そうに凝視している。キレイな色だ、と思いを馳せていればいつの間にか目の前に整った梶本くんの顔が近付いてきていて、我に返った俺は少しだけ慌てたように身を退いた。

「え、あメンゴ!…梶本くん朝早いねぇ」
「…目が冴えてしまって」

そうして笑ってみせた表情を見たら、鼓動は自然と速まった。狡い、そんな優しい笑顔。

「どっか行くの?」
「ええ、散歩でも。どっちにしろ、もう眠れないと思うので、」
「…ねぇ!」
「はい?」
「…ご一緒、して良いかな?」

更に加速度を増した鼓動はばくばくと響いていて、自分らしくないなって自嘲気味に笑みが溢れた。俺って、こんなに情けなかったっけ。
梶本くんの言葉を待っていると、彼の手のひらが目の前に差し出された。少し落ち着いてきていた鼓動は再び暴れだす。

「行きましょう」

繋いだ手のひらは温かくて、少しだけ冷え込む朝方には丁度良い体温だった。
きっと、頬っぺたもうっすら紅いんだろうなあ。