@羽→季 「拓馬が彼女作ったってマジ?」 「うん、らしいね」 見上げた空は生憎にも快晴とか言い難い、灰色の雲が一面を覆っていた。青い空は雲の間から微かに見えるだけで今すぐにでも雨が降りそうなくらい。授業を抜け出して屋上に来たは良いものの、その天気だ。気分が良いはずはない。ドアから死角の所へ寝転がれば、上に人影があるのを見つける。見つけたと同時に顔を出したのは同じ部活のチームメイトの一斗くん。一斗くんが手招きするから、寝転がった身体を起こして上へ登る梯子に手を掛けた。 刻は過ぎて、夕方。朝の天気予報通りに、空は暗く大粒の雨が降り注いでいた。今日はパパがコーチに来る日ではないし、自分も一斗くんも傘を持っていない。部室の窓から見た外はまるで別世界だ。小さく溜息を溢すと、同じように一斗くんが溜息を吐いた。今まで雨の中、帰った事は多くはないけれど少なくもない。噂の拓馬は例の彼女と帰ったらしく、航や茜が冷やかしていたけれど、当人の拓馬は嬉しそうに浮かれていた。電気を付けてない部室で、外を一心に見ていたらロッカーに背を預けて座る一斗くんはこっちを見ていたらしく、視線がかち合う。呼ばれた訳でも無いけれど、隣へ座ったら微かに一斗くんの頬が綻んだ。その理由はわからなかったけれど、居心地が良くて暫くは何も話さないまま雨音だけを聴いていた。微かに混じる相手の息遣いも。 「季楽」 「うん?」 「愛とか恋とか、分かる?」 「…どうしたの」 隣から感じる一斗くんの視線は怖いくらいだった。でもそれの意が分からなくて、小首を傾げていたら急に目の前の一斗くんが居なくなった。正確に言えば、更に近づいてきて背中に腕を回されていた。そう、抱き締められたんだ。 「…ドキドキする?」 「しない、けど」 「、そっか」 「……失恋したの?」 「…そんなところかな」 一斗くんの声が震えていた気がする。でも、俺にはその意が何も分からない。それでも、抱き締められていた体温は離れて小さく呟いた一斗くんの曇った表情が、忘れられなかった。その体温が離れて欲しくないと願ってしまった俺は、ほぼ無意識に寂しく震える一斗くんを抱き締める。直に嗚咽する一斗くんの声が、雨音をバックに部室に木霊した。 |