「あっ、あとべくんっ…」

自分でも驚いた。こんな弱々しい声が出て、こんなに愛されたいと思うなんて。そしてどうしてこんな有名人な跡部くんが僕に構うのかも分からない。差し伸べられた掌に逆らえるわけはなくて、つい甘えてしまうのだ。

「…どうした?」

頭をやんわりと撫でられる感覚は心地好かった。猫もこんな感じなのかな、なんて思いを馳せていれば心配そうに目尻を下げた跡部くんが顔を覗き込んでくる。何でもないはずはないのに、小首を左右に振ると困ったように跡部くんは笑った。この顔が見たかったって言ったら、怒られるかな?その表情は僕にしか見せてくれないらしい。でも困った顔を見続けることに居たたまれなさを感じて、跡部くんの首に腕を回した。こうすれば顔は見えないし、体温がぬくぬくしていてきもちいい。跡部くんは僕の背中を柔く撫でて、赤ん坊をあやすように小さく笑った。子供扱いされたみたいで悔しかったから、跡部くんの耳朶を甘咬みしたらぴく、と肩を揺らしたから今度は僕が小さく笑った。

「…ね、跡部くん?」
「んだよ、」
「もっかい、好きって言ってよ」
「…ククッ、なんだ甘えたかよ。可愛いやつ」
「うるさいなあ」

今度は僕が耳朶を甘咬みされた。予想もしなかった行動に情けない声を洩らしたら盛大に笑われた。仕返しにと胸板をどんどんと拳で叩くもびくともしなかった。

「家来ねえか」
「…あの、高級車で?長いやつ?」
「ああ、おもてなししてやるぜ」
「怖いなあ、その顔。食べられちゃいそう」
「ほう?可愛がってやるよ」

かっこいい顔で言うもんだから、それに反抗せずにいたら逆に跡部くんの方が恥ずかしかったみたいで、反応しろよと怒られた。小さく笑ったら、跡部くんも笑顔になったから胸が痛くなるくらいに、幸せだった。

「ほら、置いてくぞ」
「あ、待ってよ!」