「は、あ…っ」

身体をなぞる指先はごつごつとした形なのに繊細で、触れた箇所は次々と熱を残す。無意識に洩れた息遣いは荒くて、熱っぽかった。首に腕を回せば、圧迫する刺激が背筋に伝う。非生産的な行為には、虚しさが残るばかりなのに熱を求めてしまうのは、悦楽を知ってしまったからだ。
欲求不満故の行為ではないと言えば嘘になる。しかし、そこに存在しているのはもっと空虚なものだった。形の無い、塊。度重なる行為に抵抗する理由も無く、かといって全てを受け入れた訳でも無かった。暗黙の了解が在って成り立つのだ。



重たくなっている目蓋を抉じ開けようとするも、既に陽射しは強くなっていて視界に容赦なく入り込む。余りの眩しさに開きかけた目蓋を閉じれば、やっと機能してきた聴覚が働く。微かな息遣い。

「…起きたか」

見馴れた天井にふと息を洩らす。空気を震わせた声音も今となっては覚醒剤同様だ。それだけで胸が満たされる。

「俺の護衛のクセにお寝坊かよ」
「…うっせ、誰のせいさ?」
「…!わーった、俺のせいだ。それ、宝貝、しまえ!」

慌てる姿を笑ってやると面白くもない野次が飛んできた。旁らに宝貝を戻して、その指先で溜息を吐く発の頬を撫ぜた。擽ったそうに頬を綻ばせたその表情は胸の鼓動を速めるには充分すぎるものだった。熟れるその唇に、咬み付きたくなる衝動を抑える。指先を離すと仔犬の様に双眸の瞳を丸くし、一つ笑いが溢れた。
ベッドに座ったままの発を残して立ち上がると僅かに腰が哭いた。身体に残る痛みと床に散らばる衣類が憎たらしい。直ぐに拾い上げて、ズボンを穿いたところで痛い視線に気付く。それは勿論、発のものだ。

「な、に」
「ン?見て悪かったか?」
「…阿呆さね、あーた」

寝癖が付いた頭で厭らしそうに頬を弛めながら見られるのは、いくら好意を寄せている相手だろうが正直気分は良くない。呑気に鼻歌なんか歌って、片手を上げたと思えば小さく手招きをしている。半ば呆れながら近寄り身を屈めると、

「…ん、ン!」

熟れた唇に言葉を呑み込まれた。触れるだけの柔な口付けとは違い、情事を思い出されそうな息が詰まりそうな口付けに双眸を閉じる。忙しなく歯並びを伝う舌を甘咬みすると、反抗するように舌を唾液ごと吸われた。キスに夢中になっていれば、いつの間にか腰に回された腕によって引き寄せられた。腰が、哭いて砕けそうだ。コイツとのキスは認めたくないほど、気持ち良い。
充分な酸素が吸えるようになった時には、跪いていて発の肩へと額を預けていた。

「天化」
「…発、阿呆さ」

思うように乱れた息遣いは治らない。いくら酸素を取り入れても、胸の鼓動さえも治まりはしないし、頭は朦朧としている。顔を上げて、発の視線を捉えると目眩がした。

「俺っち、」
「…ン」

言葉を紡ごうと思った矢先に、「す」に形象られた唇が再び呑み込まれた。しかし、今度は啄むようなキスに小さく吐息が洩れる。救いようが無いほど溺れているのかもしれないと悟るには多少時間を要した。それでも熱を求めてしまうのは、性と云うよりも質の悪い欲望が己を支配しているからだ。

(たとえ「好き」がタブーだとしても、)


title by ALLODOLA
(thanks!)