「ねえティキ、あたしと一緒に死んでよ」

甘い声音とともに、白い腕がするりと俺の首に巻きついた。まるで毛並みのいい猫のように優雅な仕草。ただし、こめかみに拳銃という少々物騒なオプション付きであるが。

「なんだよ、いきなり」
「理由がほしい?」
「付き合ってもいない女から理由も無しに心中申し込まれてもねェ」

苦笑をこぼしながら、空の右手を女の背に回す。左手にはまだ吸いはじめたばかりの煙草があった。消すにはちょっとばかし早すぎる。

「殺してくれても構わないけど、ひとりは嫌よ」

細い身体に指先まで埋めたところで、また甘い声が囁いた。無視して心臓まで進めてもよかったのだが、まさか本気でもあるまいと考え直し手を止める。どちらにせよ、引き金をひかれる前に力を使えばすむ話だ。

「おまえの口からそんな可愛いげのある台詞が出るなんてな」
「あら、失礼ね。女の子はいつだって寂しがりなんだから」
「女の子、なんて言える歳か?」
「本当に殺されたい?」

カチャ、と安全装置を外した軽い音が鼓膜を揺らす。さすがに調子に乗りすぎたらしい。放置していた右手を抜いて、謝罪の言葉を吐きながらセミロングの髪を撫でる。微かに鼻先をくすぐるのは、薔薇の香りか。

「つーか、こないだ捕まえたとか言ってた男はどうしたんだよ。結構気に入ってなかったか?」
「それなりに可愛かったわよ。でもダメ。すぐに死んじゃうし、やっぱり人間はつまらないわ」

死んじゃうんじゃなくて、殺しちゃうんだろ。
その言葉をどうにか飲み込み、代わりに細い首筋に唇を寄せる。舐めると甘い。くすぐったそうに身をよじり、女は笑う。質の良い絨毯に拳銃が落ちる重い音がした。

「あーあ、殺せなくなっちゃった」
「残念でしたー」
「ケチな男はモテないわよ?」
「なんとでもどうぞ、お嬢様」

意地悪い言葉を適当にあしらいながら、目の前の白い肌に歯を立てる。やわくかじりついた彼女は、やはりひどく甘かった。


Arm und Nacken die Begierde.
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