最終話ネタバレと捏造

























「あたしさあ、昔あんたのことすきだったんだよねえ」

まるで世間話でもしているかのようにあっさりと、彼女はそう言ってのけた。突然のカミングアウトに、向かい側に座っていた俺の思考はフリーズする。あんたって誰だ。思わず周囲を見渡そうとした俺を見て、彼女は大きく溜息をつく。うんざりした顔だった。

「あんた馬鹿なの?死ぬの?」
「死なねえよ…つーか、なんでいきなり、そんなこと言うんだよ」
「言いたくなったから」
「おま…」

動揺している俺をよそに、彼女はお気に入りの白いマグカップに注がれたココアを飲み始める。丁寧に両手で持ち上げて、こくりこくりとゆっくり、まるで幼い子供のように。成長するにつれどんどん無愛想になっていった彼女だけど、こういうところは何年経っても変わらない。

「…なあ、」
「なに」
「昔、って、いつ…」
「物心ついたときから、あんたがウィンリィに『おまえの人生半分くれ』ってやたらひねくれたプロポーズしたときくらいまで」
「おおおおまえなんでそれ知ってんだよ!」

平静でなんていられなかった。思わずガタガタと派手に音を立てて椅子から落ちた俺を見て、彼女が顔をしかめる。誰のせいだと叫びたくなるのをこらえて大人しく座り直すが、今の俺の顔が赤いのは鏡なんて見なくてもわかった。苦し紛れに黙々とココアを消化していく幼なじみを睨んでみる。さすがに気まずくなったのか、彼女は微妙に視線を逸らして口を開いた。

「…聞いちゃったの」
「誰に!」
「あんたに」
「…へ…」
「あたし、あのとき駅にいたのよ」

苦虫を噛み潰したような表情で言った後、彼女は小さな声でごめんなさいと付け加えた。ああ、とかいや、とか曖昧な言葉を返しながら、俺はあの日のことを思い出す。まだ一年も経っていない。それを昔と言い切った彼女は、しどろもどろな俺を見て微かに笑った。

「…そろそろ、ウィンリィたち帰ってくるね。あたしも帰るよ」
「…そうか」

いてもいいのに、とは言えなかった。別に俺らが二人でいたところで、ウィンリィは気にしたりしない。むしろ喜んで歓迎しそうなくらい、あいつは彼女のことがすきなのだ。静かに席を立った彼女は、来週には中央の職場へ戻ってしばらく帰ってこない。今から帰ると言う家は、実際はピナコばっちゃんの家だ。

「送る」
「いいよ別に。すぐ近くだし」

ドアノブに手をかけて苦笑する彼女の背は、立ち上がって並んでみると俺の肩までしかなかった。小柄な彼女は子供の頃も数少ない『俺より背の低い子』だったけれど、改めて見ると少し違和感を感じる。そういえば、こんなふうに並んで立ったのは随分久しぶりだった。なんとなく、目の前の栗色の髪に触れてみる。俺とアルフォンスが昔からすきな、母さんと同じ色。彼女はぱちぱちと瞬きを繰り返して、ふいに何かを思いついたような顔をした。

「エド、ちょっと目閉じて」
「え?なんで?」
「いいから」
「お、おう」

なにがなんだかわからないまま、言われたとおりに目を閉じる。肩に何か乗った、と思った瞬間、頬を柔らかい感触が掠めた。驚いて瞼を上げると、すぐ近くにある彼女の顔が視界を埋める。淡いブラウンの瞳が、微かに揺れていた。

「結婚おめでとう、エド」

今までにないくらい優しい声で呟いた彼女は、少しだけ寂しそうに、笑っていた。


Auf die Wange Wohlgefallen.

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