寄り掛かったコンクリートの壁から伝わる冷たさに、思わず小さく顔をしかめた。秋の夕暮れは寒い。吐き出す息が白くならないのが不思議なくらいで、今からこれじゃあ真冬には凍ってしまうんじゃないかとさえ思った。カーディガンの袖を引っ張ってできる限り指先を隠す。寒さと他人の視線が痛くてきょろきょろと周りを見渡すと、門の向こうからようやくお目当てが現れた。怠そうに細められた金色の瞳と視線がぶつかる。無機質な風景の中でひとり鮮やかに浮かび上がる彼は、びっくりしたように瞬きを繰り返して駆け寄ってきた。

「え、ちょ、なんで?!この時間まだ学校だろ?!」
「エドワードくんにとても会いたくなって早退しました、かっこ笑い」
「いやいやいやかっこ笑い、とかじゃなくて!おまえ馬鹿だろ!」
「大丈夫あたしこないだのテスト学年で7番だったから」
「そっちの馬鹿じゃねーよ!」

ぎゃいぎゃいと騒ぐエドに返事をするのも飽きて、黙って右手に持っていたビニール袋を突き付ける。怪訝そうな顔をしながらもで大人しく受け取ったひとつ年下の幼なじみは、中身を確認するとほとんど変わらない高さにあるあたしに視線を戻した。何だよこれ、って驚いた声で言うから差し入れって答える。

「へ?なんで?」
「なんでって…まあ気分ですよ。つーかアルは?」
「あー、あいつ今風邪でダウン中」
「あら残念。とりあえず帰ろうよ、寒い」

気がつくとローファーを履いている足元まで冷えてきたので、中学指定色の黒いセーターに覆われた指先を掴んで歩き出す。と、げえ、と嫌な声を出された。ちょっと豆助、その反応はさすがのおねーさんも傷つくんだけど。

「おまえいつからいたんだよ、手ェめちゃくちゃ冷てーぞ!」
「え、そんないなかったよ?エドがあったかすぎんのー」
「…ハァ…」

嫌がられたんじゃないことにほっとしていたら、エドはぐしゃぐしゃと髪を掻き乱して溜め息をついた。手を掴み返されて、そのまま学ランのポケットに突っ込まれる。絡めた指もぎゅっと握られたので、右手だけ急激に温度が上がった。心臓が跳ねる。やばい。そんなあたしの様子なんてまったく知らないエドは、器用に空いた方の手を使ってビニール袋からあんまんを取り出した。残った肉まんはアルに持って帰るらしい。なんだかんだ言って優しいお兄ちゃんだ。そう思って眺めていると、白い塊をいきなり突き出された。

「おら、一口やるよ」
「それあたしがあげたやつじゃん」
「貰ったのは俺だから今は俺のモノ」

にやりと笑うエドがかっこよくて、再びどきりと跳ねた心臓を隠すために目の前のあんまんにかじりつく。買ってから時間がたっているので熱すぎなくてちょうどいい。あったかい甘さが口の中に広がって思わず頬が緩んだ。

「うまい?」
「うまい」
「じゃーいただきます」
「え、あたし毒味係?」
「うん」

ぱくり、もぐもぐ、ごっくん。あっという間に110円を平らげたエドは、あま、とか何とか言いながらまた器用に片手でゴミをビニール袋に突っ込んだ。それからあたしを見て、不意にさっきよりもっと悪戯っぽい笑みを浮かべる。なに?と声に出す前に何かが唇の端に触れた。

「…ゴチソウサマ」

あたしの心臓に悪い笑顔はそのままに、至近距離で低い声が耳をくすぐる。細められた金色に剥き出しの左手が震えて、熱い。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -