手の中の振動が止んだ。同じ曲をリピートし続けるヘッドフォンを外して閉じていた目を開けると、息を切らして膝に手をつく待ち人の姿。早かったね、と笑うとそいつは思い切り顔を上げてわたしを睨みつけた。

「なっ…にを考えてるんですかあんたは!」
「え、なんでそんな怒ってんの」
「夜中にいきなり呼び出されて怒らずにいられる人はよっぽど優しいか、もしくはただの馬鹿です」
「さっすが似非紳士…いだだだだ、ちょ、足踏んでる!痛い!てかブーツ!汚れる!」
「………」

はあ、と盛大に溜め息をついた優しくないらしい白髪少年は、わたしの左足から大きなスニーカーを退けてベンチの隣に腰を下ろした。とりあえず走ってきてくれたみたいなので、あらかじめ自販機で買っておいたミルクティーを差し出す。お礼と引き換えにあったかいそれを持っていった彼の指先はすっかり冷え切っていた。

「ていうかなんで電話出ないんですか…5回くらいかけましたよ、僕」
「えっそうなの?全然気づかなかったな〜」
「もっかい踏むぞ」
「すんません出るの面倒だっただけですごめんなさい」

買ったばかりのブーツにこれ以上足跡を付けさせるわけにはいかないので、おとなしく謝って右手を差し出す。首を傾げたアレンの視線の先には、薄い青色の紙袋。何ですかコレ?と目で訴えられるのを無視して明後日の方向を向くと、アレンはようやく荷物を受け取ってくれた。

「貰っていいんですか?」
「貰ってくれなかったら泣くよ?」
「いや、泣かなくても貰いますけど…あ!」

怪訝な顔をして中身を物色していたアレンが声を上げた。公園の入口にある時計はちょうど0時を指している。この日に呼び出される理由なんてひとつしかないはずなのに、やっぱり彼は今まで気づいていなかったらしい。

「…誕生日、おめでと」
「…なんでこっち見て言ってくれないんですか、そのセリフ」
「だって恥ずかしいじゃん…!」
「うわ、お菓子ばっか。まさかこれ作ったんですか?」
「無視か!そんでまさかとか言うな!ちゃんと食べれるから!」
「冗談ですよ。…これ渡すために、わざわざ?」
「…まあ、ね」

うわ、今さらになってすごく恥ずかしい!心の中で叫んで、でもアレンの反応が不安で、絶対に赤くなっているだろうなって見なくてもわかるくらい、熱い頬を手で隠しながら左側を盗み見る。と、丸いクッキーをくわえたアレンとばっちり目が合ってしまった。慌てて俯くけど、にやりと紳士らしさの欠片もない笑顔に覗き込まれて耳まで熱くなってくる。それでもぼやけるくらい近くにある瞳が優しくて、わたしの頬も少し緩んだ。きっと可笑しな表情になっているだろうけど、それでもいい。アレンが喜んでくれるなら。

「ありがとう、でも夜中に女の子ひとりで外に出てくるのは、心配だからもう止めてくださいね」

目の前で形のいい唇が呟き終わった瞬間、咄嗟に目を閉じるのと同時に、甘くて冷たい熱がわたしから酸素を奪っていった。ごめんねアレン、きっとわたし、来年も同じことするかも。



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