ゆらりゆらりと、橙色が水面に揺れる。水路を照らす灯りはあまり強くないし、地下だから外の光も一切入らなくて、此処はいつも薄暗い。隣に座っているラビに視線を向ける。片方しかない瞳は、つまらなそうに水路の奥を見つめていた。

「ラビ、もう戻れば?」
「なに、俺がいると邪魔?」
「そんなんじゃないけど」

どれくらいこうしているのかわからないけど、昨日帰ってきたわたしはそれなりに休息をとったからまだ良い。でもラビは何時間か前に帰ってきたまま、船着き場を出ないでずっとわたしと一緒にいる。任務から戻った、傷だらけの姿で。

「せめて医務室くらい行った方がいいって」
「大丈夫さ、そんなたいして怪我してねェし」
「また婦長に怒られるよ?」
「う…」

この間怒られたときのことを思い出したのか、綺麗な横顔が叱られた子供みたいに歪んだ。笑ってやると、彼は大きく溜息をついてわたしを見る。その顔もちょっと笑っているから、多分後でちゃんと行くんだろう。これ以上からかうのもかわいそうなので、さっきのラビみたいに水路の奥に目を向ける。

「つーかさー」
「んー?」
「なんで俺らこんなことしてんだろうなー」
「まあ半ば意地だよねー」

あは、と気の抜けた笑い声が漏れた。別に頼まれたわけじゃないし、寧ろ彼はいつもの仏頂面でウゼェとか言いそうだけど。ただ待つだけっていうのは意外と疲れる。
そんなふうに思いながら欠伸をひとつ。涙が滲む視界の隅で、ふいに橙色ではない何かが揺れた。

「なあ、あれじゃね?」
「マジで?」
「マジさ」

ぱっと立ち上がったラビにつられて、わたしも椅子代わりにしていた石段から腰を上げる。目をこらすと、薄暗い水路の奥から舟がやって来るのがわかった。わたしには見えないけど、多分彼が乗っているんだろう。ラビは片目なのにわたしより視力がいい。

「うあーやっと来た!もう待ち疲れた!」
「クラッカー持ったか?」
「持った持った!」
「じゃー行くさ!」

ふたりで子供のようにはしゃいで、少ししかない石段を駆け降りる。舟はもうわたしにも誰が乗っているかわかるくらいすぐそこまで来ていた。案の定、彼は怪訝そうな顔でわたしとラビを見ている。クラッカーとプレゼントを背中に隠して、わたしとラビは笑いながら彼の舟が着くのを待った。





「「誕生日おめでとう、ユウ!」」
「…名前で呼ぶな、ウゼェ」



遅れてごめんね、
誕生日おめでとう神田!

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