成績優秀スポーツ万能、それから容姿端麗。思春期の少年少女らがなによりも羨ましがるそれらすべてを兼ね備えた彼は、いま、わたしの前でカリカリと日誌にシャープペンシルを走らせていた。色素の薄いさらさらの髪が、窓から差し込むあざやかな橙に染まっている。きれい。気づけばそんな言葉がこぼれていた。シャープペンシルの音が止まって、代わりに悠太が顔を上げる。無表情に見えるけど、これはちょっとびっくりしてる顔。もう一度、きれい、と呟いた。

「なにが?」
「悠太が」
「…なにそれ」
「そのまんまの意味だよ」
「わけわかんないよ」
「わかんなくてもいいよ」
「そんな言い方されたら、気になるじゃないですか…」

瞬きした長い睫毛が、あんまり焼けてない肌に影をつくる。あきれたように落とされた溜息すらかがやいているように思えて、わたしはひとりふふっと笑った。

「ほら、早くそれ書いちゃって帰ろうよ。わたし7時から観たいドラマがあるんだから」
「まだ4時半だよ」
「もう4時半なの」

はいはい、とゆっくり息を吐くように言って、悠太はまた手を動かしはじめた。カリカリ カリカリ。わたしは目を閉じて、彼が文字を生む音を聴く。うすい瞼に橙が透けて、ぼんやりあったかいなあと思った。もちろん、どんなに空があたたかな色をしていたって、教室を出たら凍てつくような寒さが待ち構えていることはわかっている。だってもう、12月なのだ。

「ねえ悠太」
「なに?」

カリカリ カリカリ

「わたしね、」
「うん」

カリカリ カリ、

「悠太のこと」
「……」

カリ、  パタン

「すきだよ」

「…ちょっと、先に言わないでよ。わたしいま、身体中の勇気を振り絞ったところだったのに」
「こういうのは男から言うもんでしょう」
「意外にロマンチスト?」
「うるさいよばか」

悠太にしてはめずらしく荒い言葉遣い。目を開けると、すぐ近くに淡いこげ茶色をした瞳があった。きれいだな。また思ったけれど、今度は声に出す前に、悠太がわたしの吐息ごと吸い込んでしまった。




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