「愛してる」

二人しかいない部屋に俺の薄情な声音が落とされた。嘘、じゃないけど、薄っぺらくて虚しい響き。そんな空っぽな言葉を聞かされた彼女だって、俺と同じように気づいているはずだ。でも責めない。ただベッドに転がる俺を振り向いて、小さく笑うだけ。

「いきなり何」
「別に、なんとなく」
「ふうん、」

ラビはあたしのこと、なんとなくで愛してくれてるのか。悲しみも怒りもせず、むしろ楽しげな顔で彼女は言う。それから読んでいた本を閉じて、ブーツを脱ぎ捨てながら俺の隣へダイブ。薄いシャツの向こうから香る彼女の匂いに心臓が跳ねた。

「さすがにそんなテキトーじゃないさ」
「へえ。あたしはラビのこと、なんとなーく愛してるけど」
「まじでか」
「ばっか、嘘だよ」
「なら良かったさー」

付き合い始めたときもこんな感じだったと思う。無理してしゃべらなくても居心地良くて、沈黙が苦痛にならない。傍にいると落ち着く。それが愛とか恋とかいう感情なのかどうか、俺には解らない。知りたいとも思わない。それってブックマン後継者としてまずくない?と彼女は笑うけれど、そんな情報は裏歴史を記録するのに必要はない気がする。

「ラビの隣あったかいわー」
「おまえが冷たいんさ」
「違うよ部屋が寒いんだよ」
「そりゃ冬だからなー」

中身のない会話は、それでもさっき俺が吐いた寒々しい愛の言葉よりよほど暖かい気がした。きっと俺にはこのやり取りより温度のある「愛してる」は生み出せない。そう思うとひどく泣きたくなって、小さな彼女を抱きしめて情けなく歪む顔を隠した。


 



まただ、と思う。引き寄せられる前に視界を掠めた彼の顔は、見ているこっちが泣きそうになるくらい哀しみに満ちていた。最近よく目にする表情。そんな顔は見たくないのに、あたしは結局ひとつも言葉を見つけられなくて知らないふりをする。ラビはこんなに優しいのに、あたしは優しさの仮面を被ることもできないのだ。

「…ラビ、あったかいね」
「だからおまえが冷えてんだって」
「そうだね、あたし冷え症だから」
「わかってんならもうちょっと厚着しろよ。そのうち風邪ひくさ」
「いいよ、ラビがいるから寒くないもん」
「あのなあ…」

はあ、と呆れたような溜息が耳元をくすぐった。その温度すら優しくて堪らなくて、きっと泣きたいのはラビのはずなのに、あたしの眼は熱いような冷たいような雫を滲ませる。ラビは優しくて優しくて優しすぎて、あたしをどろどろに甘やかして、それだから自分に使う分の優しさを残していない。それが哀しくて切なくて、そしてどうしようもなく愛しいと思う。

「…ラビ、」
「なに?」
「愛してる」

返事は無かった。けれど抱きしめられる力が少し強くなって、頭から爪先まですっぽりとラビに包まれる。顔を押し当てた彼の胸から響く心臓の音も優しくて、あたしは幼い子供のように彼の服を握りしめたまま、声を殺して泣いた。


 




@愛し/RADWIMPS
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