ぎゅうううう、って音がしそうなくらい、全力で彼を抱きしめる。苦しい!って言うルフィの声は優しくて、わたしには見えないけど多分いつもとおんなじように笑っているんだろう。瞼の裏にそれを浮かべるだけで嬉しくて、腕の力を緩めて顔を上げ、わたしはこれでもかってくらいの笑顔で叫んだ。

「誕生日おめでとう!」

一瞬きょとんと目を丸くしてわたしを見下ろした彼は、自分の誕生日なんてすっかり忘れていたらしい。わたしはとにかくルフィの誕生日をお祝いできることが嬉しくて仕方なくて、もう一度ごつごつした胸に顔を埋める。あたたかな陽だまりの匂い。ナミのミカン畑の甘い匂いもちょっぴり混じっていて、頬が緩むのが抑えられない。またぎゅうううう、って抱きしめると、今度はルフィの細い、だけどちゃんと筋肉のついた腕が背中に回された。ぎゅうううう、っておんなじくらいの強さで抱きしめられる。もちろんルフィが本気で力を入れたら骨の一本や二本は簡単に折れてしまうだろうから、ちゃんと加減してくれてることはわかっている。

「そっか、おれ、いっこ年取ったんだなァ」
「そうだよ、わたしよりいっこ上になっちゃったんだよ」
「うへー、じゃあおまえよりおれの方が偉いのか!」
「それはいつもでしょ」

にしししし、と笑ってわたしの髪をぐしゃぐしゃ掻き混ぜる彼は、年が上とか言う以前にこの船の船長だ。わたしより偉いのは当たり前。ぴったりくっついた身体から伝わる温度も心音も何もかも、わたしなんかよりずっとずっと偉い。だってルフィをつくっている。わたしの大すきなルフィを、わたしが思いきり感じられるようにしている。真っ白なシーツの上で抱きしめあう幸せをくれる。世界中どこを探したって、こんなに素敵なひとはいない。

「ねえ、ルフィ」
「ん?」
「おめでとうって言ったの、わたしが一番最初だよね?」
「そうだぞ!だって今日おれ起こしたのおまえじゃねーか!」
「そうだね」

だってわたし、昨日みんなに頼んだもの。明日の朝ルフィを起こすのはわたしでいいかなって。みんな笑って許してくれて、いつもより早起きした彼らは今頃キッチンでサンジくんのお手伝いをしているはず。大きな大きな誕生日ケーキ。でもきっと、ルフィはあっという間に食べちゃうんだろうな。ふふ、とまるでロビンみたいな笑みが零れる。それが合図のようにして、二人ともゆっくりと抱き合う腕から力を抜いた。

「プレゼント、何がいい?」

寝起きで乱れている彼の髪を撫でながら尋ねると、まあるい目がわたしを見下ろしてぱちぱち瞬く。本当はこの間立ち寄った島で何か買おうとしていたけれど、結局何をあげたらいいか思いつかなくてやめてしまった。ルフィの欲しいものっていったら肉くらいしか浮かばなかったし。

「何でもいいのか?」
「あんまり高いものはやめてね、ナミに怒られちゃうから」
「安心しろ、買うもんじゃねェから」
「え?」

悪戯好きな子供のように笑って、彼は言う。買うものじゃないって何だろう。作れってこと?それじゃあやっぱり食べ物なのかな。心の中でいろいろ思案していると、不意に両脇に垂らしていた手にぬくもりが触れた。大きくて骨張った掌が、わたしの小さな両手を包む。気づいたときにはもう遅い。視界いっぱいに優しい笑顔が広がって、唇に柔らかな感触。ぺろりと下唇を舐めて離れていくそれは、ルフィがキスするときの癖。顔と繋いでいる掌に熱が集まるのがわかった。

「おまえがずっと傍にいてくれんなら、それでいい!」

太陽のように眩しく笑う彼の顔色に変化はない。自分だけ真っ赤になっているのが悔しくて堪らなかったけど、それでもわたしはルフィに負けないくらいの笑顔で大きく頷く。そんなプレゼントでいいなら、いくらだって叶えてあげるんだからね!


あまい太陽

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