スリジアに誓う






 引き寄せられ、互いの前髪が触れ、微かな吐息ですら熱を感じる。


「……スリジアに誓って、君を離さない。だから私の瞼に映る様に、近く――――、もっと近くに、来てくれ」


 近付く顔が、一旦止まる。ガロットからの口付けを待つつもりなのだろうか。ベルホルトが視点の定まらぬ瞳でこちらを見詰めている。
「…………」
 この行為にはベルホルトの覚悟が込められているのだろう。
 手を取り合った先に待ち構えるのは、茨に満ちた険しい道であることは間違いない。だがそれでもきっとこの目の前にいる男は、繋いだ手を離さないでいてくれるのだろうとガロットは感じた。
「ガロット」
動かぬガロットに少し焦れたのだろうか。ベルホルトは頬に触れている手の、その指先でゆっくりと目元を撫でながらこちらの様子を窺っている。
そして先程ベルホルトが誓いを立てたスリジアの木が、葉の重なる細やかな音を奏でながら揺れている。まるでスリジアの木にも促されているように感じて、声を出さないもののガロットは困ったような笑みを浮かべた。
「……少し、お待ちください」
 痺れを切らし、今にも自分から口付けそうな雰囲気を醸し出しているベルホルトの唇をそっと親指で封じる。その顔はとても不満気だ。
 そもそもガロットの性格的に人前で口付けをするのはあまり好ましい事ではない。けれどもベルホルトの思いを感じた今、もうそのような理由やリスクで躊躇しているわけではなかった。
 そう、数秒だけ。少しだけでいい。

 ――――貴方が誓いを立ててくれるというのならば、私も、




「……私も、このスリジアの木に誓って」



 大丈夫だ、恐れるものはなにもない。
 私はもう孤独ではない、この人がいる。
 貴方とならば私は毒の皿を全て平らげ、茨を切り落とし、熱された鉄の靴でも踊ってみせよう。


 貴方の後ろではなく、貴方の隣で。共に生きる為に。






「ベルホルト、貴方から離れない」




 
 唇から親指を離し、そのまま顎を掬い上げ



 ――そして、互いの唇を重ねた。











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 国のシンボルとも言っても過言ではないであろう、スリジアの木の下での恋人同士の口付け。
 この二人が主従である事さえ除けば他の恋人達もよくするであろう、特別珍しいことではない光景である。
 しかしそれを一人、喧騒に紛れ遠目に凝視している男がいた。暫くしてその男の前を先導するように歩いていた、身なりの整った少年が振り向き口を開く。

「ジグ、どうした?」
「……いえ。羽虫が、目の前を飛んでいただけでございます」
「羽虫? そんなもので足をとめるなんてお前らしくないな」
「目に映ってしまったもので……お待たせして申し訳ございません。さあ屋敷に戻りましょうか、お身体が冷えてしまいますね」

 主人であるエーデルに視線を移し言葉を返すジグの表情は、普段と変わらず涼しげな笑みを浮かべていた。


 苛立ちを微かに滲ませる、その瞳だけを除いて。














 ――暖かな陽は完全に落ち、冷たい風の吹く夜が訪れる。







end







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るるさんの作品【せかいがふたり】『此処でキスして』のちょっぴり続きです。



るるさん宅(@lelexmif)ベルホルト様
みそさん宅(@misokikaku)エーデル坊ちゃん



お借りしました!




2016/06/16

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