焦がれる花




眩しく照り付ける真昼の太陽の光に目を細め、ガロットは屋敷の庭先で花壇の水やりをしながら空を見上げていた。以前よりも空が低く感じる。

このリベルタ国にも本格的に夏が到来していた。

現在水で濡れてしまわぬようにと普段の上着を脱ぎ、シャツを二の腕まで捲り上げてはいるものの流石のガロットも暑さを感じているのか額から一筋の汗が流れる。顎へと伝いそのままぽたりと地面に落ちたそれを見て漸く汗に気が付き、懐からハンカチを取り出して額を拭った。もう片方の手に持っているブリキ製の如雨露も中身を出し切ったのか水の吐き出し口から水滴が僅かにぽたぽたと落ちている。水を受けた青紫色のサルビアが太陽の日を受け、まるで喜ぶかのようにその小さな花弁を輝かせていた。


「さて、後は主様のお部屋の花を買いに……」


季節が変わればその時期の花も変わる。さて今回は何が良いだろうかと思案しながらガロットは着崩していた服を整えると、屋敷の中で掃除をしていたシャンに一声掛けてから中心街へと向かった。
暑いから見目だけでも涼しげな、白や淡い色合いのものにしようか。そんな事を思いつつ街の石畳をカツカツと歩いていたが、ふと賑やかな声に顔を上げればそこには人に囲まれている、見覚えのある姿が。思わずガロットは顔をしかめた。長い銀髪を揺らしながら笑っているその男に見つかってしまう前にここを通り過ぎてしまおうと足を速めた。が、


「……んー?ちょっと待ちなよそこの黒服の兄さん」


横切った所で声を掛けられてしまった。無視を決め込もうと足を止めずにいたが、追いかけて来たのか軽く肩を掴まれる。振り向かずにいたが結局は肩を引かれ顔を見合う形になった。同じ高さで互いの視線が絡む。己の主とはまた違う色味の金の瞳が眩しかった。


「あー、やっぱり。へぇー、あんた昼間はこんななんだねぇ」
「……何ですか、不躾に」
「いや、まさかこんな真昼間にこーんなところで見かけるとは思わなくてな……良いトコの執事さんってところか?」


気が付けば金の瞳は下へと向けられガロットのネクタイピンを見詰めていた。思わずそれを指先で隠せば、そのまま側で開かれていた青果市場の野菜に手を伸ばしひとつ拝借し、覗きこんでいる男の頭に思い切り突き立てる。


「いっ……!?ちょ、なにアスパラ!?」
「余計な詮索はなさらぬように、こう見えても私は大変忙しいのです。私に遊んで欲しいのでしたら次の満月まで大人しく待っていなさい、セム」
「あー……はいはいそうだったな“詮索はしない”。 まぁ次に会う時はあんたのご立派なあの角へし折らせてもらうよ」


頭に飾られたそれを引っこ抜きながら声を上げたセムだったが、ガロットが人差し指をその唇に添えると察したのか落ち着きながら苦笑を浮かべた。その様子に満足したガロットは「楽しみにしていましょう」と僅かに笑いつつ頷き、軽く一礼をして止めていた足を目的地へと進めた。


「あ、そちらのアスパラガスの代金は貴方がお支払い下さい」
「……はぁ!?」


その場に残されたセムが声を上げて抗議したがガロットが戻って来る気配はなく、結局渋々代金を支払っていた。




暫くしてよく通わせて貰っている花屋に着いたガロットは店主との会話もそれなりに花選びを始めた。小振りな白い花、涼やかな色味の葉。店主に薦められた様々な花を眺めては首を傾げる、どれもしっくりと来ない。どうしたものかと溜息を零しながらふと店の奥を見るとそこには鮮やかで力強い黄色の花弁が見えた。


「そちらは……」
「ああ、こちらですか?先程入荷したばかりなのですよ。これから表に出そうかと思いまして……まさに今の季節という感じではありますが先程お客様が仰っていた花のイメージとは離れてしまいますねぇ」


店主が一本、その掌ほどの大きさの黄色い花をこちらに持ってくる。色味の強いそれは確かに最初に考えていたイメージの涼しげな物とは全く持って正反対ではあるが、しかしガロットはその花に強く惹かれた。




「…………こちらの花に、致します」







先日の夜に悲しそうな姿を、弱さを、少しだけ吐き出してくれた主に、少しでも何かをしたくて色々と思案した。残念ながら自分の力では月を見せる事などは到底できず、だからといって元気づける為に明るく振る舞うなど性格上出来る訳でもなく。
けれど、側で支えているとだけは伝えたかった。言葉だけではなく、何かしらでいいと。少しだけでもこの思いを感じて、伝わって欲しかった。


屋敷に戻り、購入してきた一本の花をガロットは白いシンプルな花瓶に生けベルホルトの自室に飾った。あまり目立たない箇所ではあるが、一本ながら賑やかで自然と目線が引かれる。
その様子に椅子に腰かけ読書をしていたベルホルトも興味を持ったのか、読んでいた本を閉じガロットの方を見上げた。


「珍しいなガロット、キミが向日葵を買ってくるなんて」
「……お気に、召さなかったでしょうか?」


声を掛けられベルホルトの元に歩み寄るとガロットは膝を落とし様子を窺うように首を傾げながら見上げた。


「いや、イメージになかったというだけだ。夏らしくて良いじゃないか?心なしか部屋も普段より明るく見える。私も元気を貰えるようだ」
「……恐れ入ります」


ふわりと微笑むベルホルトに胸が暖まるような感覚を覚えながらガロットが頭を下げると、それと同時に強いノックの音が響いた。続いてシャンが部屋へと飛び込んでくる。


「主様ー!せーんぱーい!そろそろティータイムにしませんかー!今日はいいお茶菓子があるんですよー!」


満面の笑みのシャンが手にしている大きなトレーの上に乗っているのであろう紅茶と菓子の匂いに部屋が包まれると、ベルホルトも釣られるように笑った。


「そうだな。折角だ、今日は天気もいい。テラスで頂こうか」


いくぞ、ガロット。という呼びかけと共にベルホルトが立ち上がると、ガロットも同じように立ち上がり部屋の外へと向かった。





部屋を出る直前にガロットは向日葵を見詰める。

向日葵は窓から差し込む太陽の光を一身に浴びていた。







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サルビア: 「尊敬・尊重」「知恵・賢さ」
アスパラガス:「何も変わらない」「私が勝つ」「敵を除く」

向日葵:「私はあなただけを見つめる」「崇拝」「愛慕」



お題「向日葵」


ちょっと向日葵に自分を投影しつつ、自分にできないことを代わりにしてもらうガロットでした←
主様はガロットの太陽!!


シャンさん(@misokikaku)
セムさん(@sana_mif)
ベルホルトさん(@lelexmif)


お借りしました!

2015/07/12


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