眼下の薔薇





薔薇を渡し始めて暫くは経ったものの、特に彼女からこれといった反応はなくて。


「うーん……恋人がいる、とか?」


研究所の中でカレルヘルムはひとり椅子にぎしりと音を立て、深く腰を落としながら首を傾げた。それとも案外花言葉に疎いのだろうかと思考を巡らせる。
その手元にはいつも通りの一輪の紅い薔薇。棘を抜かれたそれをくるりと手元で回す。

己の小さな手が見える。


「……それとも子供扱いされてるのかな」


むぅ、と少しだけ顔をしかめた。

好みではない、他に相手がいる。とかならまだ諦めようもあるが(まぁそんなつもりは無いのだけれども) 見た目が幼いだけで相手にされないのは納得がいかない訳で。
……勿論本人がそう言ったわけではないので勝手な憶測に過ぎないのだが。


「うーん……さてどうしようかなぁ」


このままではこの薔薇の返事すらはぐらかされてしまいそうだ。せめてどう思ってくれているかだけでも知りたい。
ギシギシと椅子を揺らしながら近くに投げてあった魔導書を手に取り、ぱらりと当てもなくページをめくる。これは確かコヨミの素体を作る時に使った……


「ん?これは……」


口元を少しだけ緩ませる。


「……苦手だけど……うん。いいかもしれないね!」



カレルヘルムは勢いよく椅子から立ち上がると、魔導書を机の上に放り投げ椅子の背に掛けていた白衣を身にまとう。確か昔に“コレ”を得意としていた人物が、今も居るならばあそこにいたはずだ。

手短に出かける準備をすませるとカレルヘルムは己の研究所から飛び出した。
目指したのはとある店。扉を開けて一番に目に入った男にまで駆け寄り声を掛ける。


「……ん?これはまた珍しいお客だね」
「やっほ、教えて欲しいことがあるんだけど。……ティオルノ?」


くい、とティオルノの服の裾を掴みながらカレルヘルムはにんまりと笑顔を浮かべた。


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カレルヘルムのちょっとした騒ぎから一週間は経っただろうか。



目の前にはもう見慣れてきたアレキサンドラ・ペルレの屋敷。
普段と変わらぬ笑みを口元に浮かべながら扉をノッカーで叩く。気分が浮かれているのもあるのだろうか、いつもよりも容易くノックできた。


「あら、カレ……ル?」


暫くしてアレキサンドラが中から顔を出した。
そしてその目は大きく開かれた。















アレキサンドラの目の前にいたのは青年の姿をしたカレルヘルムだった。



「ふふふ、どうかな?変化の魔法は苦手だから知り合いのエルフに教えて貰ったんだけど……これで少しは僕も男として見て貰えるかな?」


くるりと、持っていた薔薇をアレキサンドラに差し出す。
普段見上げている彼女の顔を見下ろす形になる、とても新鮮だ。


「この花言葉の意味、サンドラは知ってる?」





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アレキサンドラさん(@mosokikaku)
ティオルノさん(@tsune_libeam)

お借りしました。

2015/06/21

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