ふたつの葉




フェスティバルもラストを迎えた夜、街の賑わいも少しずつ落ち着いて行っている。

スリジアフェスティバルの最終日に行なわれたファッションコンテストは、王様の「全員素晴らしかったため無効だ」という言葉により結局優勝者は決まらなかった。
まぁ別に楽しめたから良いのだけれどもと色の違う二つのハートの形の葉を持ちながら、カレルヘルムはイヴエーンと共に研究所に帰る為星の輝く明るい夜道を歩いていた。
手元にある葉のひとつはコヨミから貰った縁を運ぶという言い伝えのある薄紅色で、もうひとつは銀色だ。


「イヴエーン、フェスティバルは楽しかった?」


葉を手に持ったままカレルヘルムはイヴエーンを見上げる。フェスティバル中は自分の事を気にせず色んな人や物を見て刺激を受けて貰おうと、イヴエーンとはコンテストの時まで別々に行動を取っていたのだ。


「色々な物が見れて、とても楽しかったデス。そういえばヘルバ様という方ともお話しましタ。鹿の獣人の方デ、美脚デ足が速くテ、高い所が苦手なのデス」
「へぇお話か……ふふふ、楽しめたみたいで良かったよ」
「ハイ。……そういえばマスター、先程からお持ちのそれハ何ですカ?」
「ん?あぁそうだった。イヴエーン、ちょっとしゃがんで」


手元に向けられる視線にカレルヘルムがにんまりと笑うと、手招きをしながら「早く」と急かす。不思議そうにしながらも大人しくイヴエーンが傍でしゃがみ込めば、そっと桃色の髪の毛に手を伸ばし先程の銀の葉――、スリジアの葉をモチーフにした銀のバレッタをそっと着けた。フェスティバルの最中に露店でアレキサンドラに選んでもらった物だ。


「イヴエーンにお土産だよ。うん、本当ピンクの髪によく似合ってるや」
「私にお土産、デスか?……有難うございマス」


指先で髪に着けられた月の光を受けて輝くバレッタを確かめるように撫でながらイヴエーンがふわりと微笑んだ。無表情だったイヴエーンに、最近少しずつ表情が増えていっている。親として成長を見守るのがとても楽しく微笑ましい。


「サンドラ……あぁ、アレキサンドラって人と一緒に選んだんだ。貴族の人だけどとても物腰柔らかでいい人だったよ」
「アレキサンドラ様……もしかしてアレキサンドラ・ペルレ様でしょうカ?」
「あぁ、そういえばイヴエーンはこの前色んな貴族の人の名前覚えてたもんね」
「ハイ。貴族街の地図も記憶してますのデ、お屋敷へのご案内も出来ますヨ」


ロイドナの所から帰って来てからだろうか。食事だけではなく、貴族というものにも興味を示し先日熱心に調べていたのを思い出した。
好奇心旺盛なのは良いがそれが災いして変な事に首を突っ込んだりしなければ良いがと苦笑する。


「……屋敷かぁ」


そういえばアレキサンドラは店を開いていると言っていた、何の店かまでは聞いてなかったが興味がある。それにイヴエーンの髪飾りのお礼も改めてちゃんとしたいと思っていたし屋敷に向かうのもいいかもしれない。




それと、後は純粋に



「ふふふっ、もう一度逢いたいなぁ」



フェスティバルで偶然出会った、柔らかな微笑みを浮かべる美しい金の髪を持つバロネス。
もしかしてあの出会いはコヨミから貰ったこのスリジアの葉からきた縁なのかなと、柄にもない事を思いながら月にその薄紅の葉をかざす。



今度薔薇を一輪持って、あの人を訪ねてみようか。


驚く顔を見せてくれるだろうかと金に輝く彼女を脳裏に浮かべながら、カレルヘルムは悪戯に笑った。



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一輪の薔薇:「一目惚れ」


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スリジアフェスティバル後のお話。

お名前のみ、またふんわりと
ヘルバさん(@sana_mif)
アレキサンドラさん(@mosokikaku)
ロイドナさん、コヨミさん(@tsune_libeam)

お借りしました。

2015/05/17


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