小説 | ナノ
六畳の部屋に置かれたベット。色は紺と白でシンプルに統一されていてなんとも男子らしい。紺のカバーをかけられた枕はいい匂いというより落ち着く、彼の香りがするもんで以前改めて深く嗅いでみた私を見て「...変態かよ」と彼は引き気味だった。
そのベットの上に寝転がって彼の部屋の少年漫画を読むのがお決まりのお家デートとなっていて学校の帰りにそのまま家に寄った今日、私は制服のままで彼はグレーの部屋着に着替えている。
途中になっていた漫画の続きを開いていつものようにベットで読んでいると、コップ二つと二リットルのペットボトルを持った彼がドアを開けて部屋に入ってきた。
「...その体勢パンツ見えるぞ」
立ったままの彼からはちょうど気になる角度だったらしく、ちらっと私のスカートのあたりに目線をやったあとドスっと音を立ててベットに寄りかかりながら床に座った。
漫画を置き、横を見ると目の前には彼の首と頭があって。匂いフェチという自覚はないけれどどうにも気になって首元のあたりをスンと嗅いでみる。
「うわっ、びびった...」
コップに飲み物を注いでいる途中だった彼は、メキッとペットボトルをへこませるほど驚いたようで。
「前から思ってたんだけどお前って匂いフェチか?」
「いや...ん〜、はじめ限定かな」
「なんじゃそりゃ」
ふふ、と笑いながらまた漫画に視線をもどすと「あー...」と彼がうなだれながら頭を私の背中に乗せてくる。
「名前」
「なーに」
「...キス、今日してねえよ」
不意打ちのデレにちょっと、いや、かなり戸惑いつつも、私は「え、え?どしたの」と口調から完全に嬉しさが漏れている。
「いや、まずいきなり首の匂い嗅ぐお前もお前だかんな。気になるっつーか、誘ってるっつーか...」
「あーー、なるほど」
「なるほどじゃねえよ責任とれ」
じゃれるようにベットに上がってくる彼にきゃーきゃー言いながら笑っていると
「おま、あんま暴れんなって」
「だってさ、なんか今からキスしますって感じで緊張する」
こういうのは雰囲気とかさ、とぶつくさ言う私に彼は変に納得したような表情でベットの上に座り直す。向かい合うように私も座り直すと、「ん」と腕を彼の腰に回すように誘導されて距離は一気に近くなる。
「なに照れてんだよ」
「いや、照れるよ」
赤くなる顔を隠したくて頭をぽすんと彼の体に預けると筋肉のせいかやっぱり少し固い。
「...名前」
「ん」
「かわいい」
今の体勢は私の耳のすぐそばに彼の口があって、少しハスキーがかった声がすうっと入ってくる。
「...そういうのずるい」
「雰囲気って言ったの誰だよ」
顔を上げると身長差のせいか彼の顔は少し上にあって。
首を曲げて合わせてくれる彼が触れるだけのキスを一回。
ふふ、と笑った後に啄むキスを一回。
「もっかい?」
と聞くと彼は煮え切らない返事。考えていることが分かってくるのは彼氏と彼女という関係だからで。
「キスの先?」
「あたり」
嬉しそうにはにかみながら彼は私を押し倒す。
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