小説 | ナノ








「あ、雨...」

授業が終わり少し騒がしい休み時間の教室で、隣の席の赤葦くんがぼそりと呟いた。

つられて窓の方を見ると確かにぽつり、ぽつりと雨が降り始めている。

授業はあと一時間。
帰りは雨か...と冷静に考えてから気づく問題。

「傘持ってきたの?」

「...う」

心の中を読まれているかのような赤葦くんの言葉に動揺しつつ、核心をつく一言。

「だって、朝は太陽でてたよね?」

「あ...天気予報って知ってる?」

赤葦くんは一見、いや何回見てもクールそうな雰囲気を醸し出しているのに意外と人をいじってくる。
言い返せなくなる私を見てきっとその教科書で隠されている口は笑っているんだろうな。

「まあ...今日はいいや...」

「なにが?」

「いや、水も滴るいい女になろうかなって」

「水も滴るいい赤葦...?ありがと」

「ちょっと」

席替えをしてからこうやって二人で笑ってることが多くなって、「赤葦と隣の席たのしそう」なんて友達から言われたりすることもあったり。
昼休みはそれぞれの友達と一緒に過ごすけれど、授業の合間の短い休み時間はわざわざ席を立つこともなくこうして二人でお喋りがお決まりになってきた。

「俺が傘持ってきてなかったらどうするの」

笑い声が落ち着いてきた後、私の都合のいい聞き間違いでなければ赤葦くんの傘に入れてもらう、みたいな取り方ができる一言。
でも、まずは

「え、今日部活は?」

「二年生で最後の休み」

放課後の話だけどね、と付け加える赤葦くん。
たまにしかない休みを私が傘を持ってこなかったばっかりに...。

「いや、やっぱ悪いよ。へーきへーき!駅まですぐだし」

「...一緒に帰ってくんないの?」

「うん?」

私の脳はついに調子に乗ってしまったか。
無視するには辛くなってきた心臓の音もさらにスピードを上げる。

「でも、」

「帰りたい」

「え?」

「苗字さんと、帰りたい」

言葉を無くす私に「ん?」とニコリと笑う赤葦くん。まただ。そうやって私をからかって。

「赤葦ってそんな女子と喋んねえけどお前とは楽しそうだよな」と席替え一週間後に赤葦くんの友達から言われた一言を今になって思い出す。あ、顔が熱い。

...とりあえず、三月の雨に感謝しなくちゃ。








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