美食ハンター 

(まさかこんな注文を受けることになるなんて……。)
ルリは何を作るのか悩んでいた。

(やっぱり、素直に私が美味しいと感じる物を作ろう。)
そう、メンチは、"ルリ自身が一番美味しいと思う料理"を注文したのだ。

客であるメンチに満足してもらえるような料理を出したいルリ、しかしなかなか思いつかず、
結局はメンチの注文そのままに、自分が美味しいと思う物を作ることにした。

それからの行動は早かった。

作ろうとしているのは、ジャポンの食卓の定番、「味噌汁」である。

味噌汁は、ルリが最初に作れるようになった料理だ。
味噌汁と一言に言っても、その奥は深い。
きちんとした出汁を取るのは手間がかかるし、
出汁、具、味噌、の相性などもある。

そして味噌汁を作り始めてから数十分がたった頃―――。

「よし!完成!!」

厨房から大きな声がした。
どうやら無事完成したようである。

できたばかりの味噌汁と白米を器に盛る。
平衡して作っていた料理も重箱に詰めた。


後は食べて貰うだけだ。


「お待たせしました。」
テーブルの上へ重箱、そして二つの器と箸を置く。

「これは………ミソシル?」
「はい」

メンチが味噌汁を口へ運ぶのを、緊張の面持ちで見守る。一秒一秒が途方もなく長く感じられる。


そして、全てを食べ終えて一言。




「美味しかったわ」


「ほ、本当ですかっ!?」

ルリは信じられない気持ちだった。
「悪くない」と言われれば良くやった方だろうと思っていたからだ。


「あんた名前は?」

「ルリアマツです!」

つい声が裏返ってしまったが、それどころではなかった。


「ルリは美食ハンターに興味無いかしら?」


「び、美食ハンターですか?」

何を言われるのかとドキドキして待っていたルリ。美食ハンターについて聞かれるとは思いもしなかった。

「勿論興味はありますけど……」

すると、その言葉に目を輝かせるメンチ。


「そう!だったらあんた、目指してみない?美食ハンター!!」

「えっ!私がですか!?」

そんな無茶な!とルリは心の中で思った。
ハンターになるには多少なりとも武の心得が必要だが、彼女の運動神経は人並み以下なのだ。


「無理ですよ!私、戦ったりなんて出来ませんし……」

「大丈夫!あたしがみっちり鍛えてあげるから!!」

どうやらメンチは本気でルリをハンターにさせる気らしい。

「メンチさんのお手を煩わせるわけにはいきません!」

「あたしがいいって言ってんだからいいのよ!」

これでは埒が明かない。
ルリは、あれからずっと店の外で会話を聞いていたブハラに助けを求めることにした。

「ブハラさんも、私にハンターが務まるはず無いって思いますよね?!」

質問しているはずが、半ば脅している様な感じになってしまったが、このままではハンターにさせられてしまう。

「オレ?オレはメンチがいいって言うんならそれでいいと思うよー。見る目は確かだから」

(そんなぁ……。そもそもどうして私なんかに美食ハンターを勧めるんだろう?)
疑問に思ったルリは、メンチに訪ねた。

「どうして私に、美食ハンターになるよう勧めてくださったんですか?」

するとメンチは、
「まだ若いのにこれだけの腕があるんだから、世界中の食材を見て回らないなんて、勿体無さすぎじゃない!」
と、言った。

確かにメンチの言う通り、世界中の食材というのはとても魅力的だ。
ルリだって嫌という訳ではない。
しかし、やっていける自信がないし、店の事だってあるのだ。

「……少し、時間をいただけませんか?両親とも相談したいので」

「!わかったわ。じゃあ2日後、またこの店に来るから。それまでには決めておいて」

テーブルに代金を置くと、重箱を持って店を去って行った。


たまたま他のお客さんが来なかったのですっかり忘れていたが、店を開店させてから2時間も経っていなかった。

遠くで雀の鳴くチュンチュンという声が聞こえる。


長い1日はまだ始まったばかりだ。



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