忘れていたこと 

ルリが初めてお客さんに自分の料理を食べて貰ったあの日から、ちょうど3ヶ月が経とうとしていた。
始めこそいろいろと失敗したが、最近ではその回数も減り、順調にいっている。

今日は週に一度の定休日のため、久々に甘いものでも食べて息抜きをしようと、近所の甘味処にやって来たルリ。
注文した餡蜜を待っていると、近くに座る客の会話が耳に入ってきた。

「おい、お前聞いたか?あの噂」
「あの噂?……いや、どんな噂だ?」
「なんでも、美食ハンターのメンチとブハラが今この辺に来てるらしいぜ」
「ハンターってお前……、あの"ハンター"かよ!?」
「馬鹿っ!声がでけぇよ!!あのハンターに以外にどのハンターがいるってんだ!」
一方の男がもう一方の男の頭を叩く、スパーンという音が店内に響いた。

美食ハンター「メンチ」と「ブハラ」。
ルリはその名前に聞き覚えがあった。
しかし、誰かに聞いた訳でも、何かで目にした訳でもない。

"前の世界"での知識。


ルリには前世の記憶があったのである――――。

この世界が、前世で言うところの「HUNTER×HUNTER」の世界だと気付いたのは5歳程の時だった。
自我が芽生え始めると同時に前世の記憶がよみがり、至るところにあるハンター文字を見て気づいたのだ。
始めこそ驚き興奮したものの、前とは全く違った生活に慣れることに必死だったり、ここ数年間は料理のことに手一杯だったりで、全く意識していなかった。

そんな時に耳にした名前。
ルリは改めて、ここが「HUNTER×HUNTER」の世界で、自分は転生トリップと言うものをしたのだと思うと、何とも言えない不思議な気分だった。

そんなことを思っているうちに、注文した餡蜜が運ばれてきた。
甘い物に目がないルリは、噂のことなどすっかり忘れて、餡蜜を口いっぱいに頬張るのだった。



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