プロローグ 

まだ夜も明けきらない早朝から、食堂「和み」の厨房には静かにたたずむ一人の少女の姿があった。
この日、少女――ルリは緊張と喜びが入り交じった気持ちで、目の前の食材達に向き合っていた。


ルリの家は食堂を営んでいる。
店はそれほど大きい訳でもなくこじんまりとした感じだが、地元では有名で、素材の味を生かした素朴で温かな料理は中々の評判だ。

ルリは幼い頃から両親を真似て料理を作っており、本格的に修行を始めたのは10歳の時からだった。
それからもう5年、修行の甲斐あってか今ではもう両親と殆ど違わない味が出せるようになっていた。

そして今日、遂にその料理がお客さんの口に入るのだ。

両親から、もう大丈夫だとは言われているものの、ルリが自分の作った物を両親以外に食べてもらうのは初めてだ。
ましてや、"お金を払ってくださるお客さん"に出すのだから
緊張しないはずがない。
ルリにとって自分の料理を食べて貰えることはとても喜ばしいことだ。
ただ、やはり今は緊張の方が大きいのだ。

いつまでも手を止めていてはいけないなと我に返ったルリは漸くその手に包丁を握った。



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