危険な遊び
「これでゆっくり遊べるね♦」
先程からこちらのやり取りをずっと見ているだけだったヒソカがゆっくりと立ち上がる。
「一応聞きますけど、貴方の言う遊びとはトランプゲームのことですか?だったら嬉いんですけどね。私、トランプなら結構得意なんです」
暑くもないのに、ルリの顎には汗が一筋つたっていった。
(落ち着け……ゴンが言ったようにたぶん殺されることはない。殺すつもりならとっくに殺されてるだろうし、態々遊ぼうなんて声はかけないはず。)
口から出ていく言葉とは裏腹に、心の中では、暴れる恐怖を押さえつけようと葛藤していた。
ただでさえ圧倒的に実戦経験が少ないからと天空闘技場にやっては来たルリにとっては、ここまで格上の相手と戦うことはもしかしたら最初で最後になるかもしれない。
故に、その緊張感は今まで感じたことのない程のものだった。
「まさか♣トランプよりももっと楽しいことだよ♥」
目を細めてニタニタと笑うヒソカ。
「まあ、それも君の実力次第。だけどね♠」
そう言い終わった瞬間、ルリ目掛けて無数のトランプが飛んでくる。
(来た!!)
実際はほんの一瞬、だがルリにはそれがとても長く感じられた。
トランプの数は全部で6枚。
生身の人間ならばひとたまりもないであろうオーラを纏ったそれらを、次々と手で掴んでいくルリ。
パシッ、と最後の一枚を手にした直後、ヒソカが拍手をしながらこちらへと近づいて来た。
「意外とやるね♠ゴンとキルアと一緒にいるだけのことはある♣」
そして一気に距離を詰め、ルリの顔を覗き込む。
ルリの両目には、ねっとりとした視線を送るヒソカの顔が映っている。
そして暫く見つめ合った後、舌なめずりをしたヒソカに、ルリは恐怖とも悲嘆ともつかないような何とも言えない感覚に陥った。
「君も美味しくなりそうだ♥」
欲情を抑えきれないといった風のヒソカに、ゾクゾクとした何かが背筋を上っていく。
(あぁ、そうか、この感覚は……)
今しがた感じた感覚、それは"食べられる"という感覚。
圧倒的な捕食者を前に、どうすることもできないでいる被食者のような感覚だった。
ルリは今、ヒソカに生かされている。
ヒソカが殺そうと思えば簡単に殺されてしまう。
だがヒソカはルリを殺そうとはしない、
それは彼が待っているからだ。
青い果実が熟すのを。
一方的に命を奪うなど、前の世界では許されない行為だった。
しかしここは、この世界では、弱いものは強いものに命を狩られる。
しかもハンターならば尚更その覚悟が必要になってくる。
そう考えると、ルリはヒソカに感謝したいと思った。
「ヒソカさん」
「ん?」
ルリが考え事をしている間、ヒソカは元々座っていた場所に戻りトランプタワーを作っていた。
「ありがとうございます」
そう言ってルリが頭を下げると、完成間近だったタワーは崩壊してしまった。
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