開錠-アンロック-
「どうぞー、適当に座ってて。」
自宅へと辿り着き取り敢えず彼をリビングへと通した。
両親が適当に選んで勝手において行ったモノトーンに統一された家具たち。
「…きちんとしてるんですね…」
「えー何、その言いぐさ。私そんなに適当に見えるの?」
「いえ…」
そりゃ自分が暮らす家なんだから整理くらいはする。
…これっぽっちも嬉しさなんて感じてないけど。
「…寂しくないんですか?」
「え…?」
思わず彼の口から紡がれた言葉を疑った。
「寂しく…ないんですか?」
聞き間違えじゃなくて本当だったらしい。
「え、どうして?」と聞き返すのが精いっぱいだった。
「だって…このリビング…生活感が全く感じられません。
だから…1人で暮らしているのかな、と…」
「すみません、深入りするようなことをして…」とテツが言っていたことは耳に届いていなかった。
だけど何かしら私は返事したことは覚えている。
「確かに、私は独りでここで暮らしてるよ…だって一緒に住む人なんていないし…」
「え?」
「…私ね、捨てられたの。」
「…」
「もっと正確に言えば、両親が離婚してどちらも違う人と再婚して…私は邪魔だからってここに置かれたの。」
「…」
「私、愛されてなかったの…っ私っいっぱいいっぱい頑張ったのに…!!父さんも母さんも…私を愛してくれなかったの…っ!!!」
どうしてテツにこんなことを話しているのだろう…
でも、何だかテツにはポロっと話してしまう。
そこから私は彼の胸に顔をうずめて泣いた。
「美影、泣きながらでいいので聞いてください…」
ぎゅっと彼の腕のにしがみつき、コクンとうなずいた。
「美影は今、『1人』かもしれません。
でも、あなたの言う『独り』ではないんです。
この家ではあなたは『1人』です。
でも学校に来れば僕がいます。
だから…そんな表情しなくてもいいんです。
溜めなくてもいいんです。
僕が全部受け止めますから…」
「…っ!?……!!!!っう…!!!」
ずっと『独り』だと思い続けていた私にとって彼のその言葉は胸に染み渡るように心の中を溶かす。
「あ…がとっ…わ、たしっ…いっぱい…テツにっ…依存、してしまうっよ…っ」
それが私の正直な不安だった。
今まで誰にも頼らずに過ごしてきた。
それなのに今更誰かを頼るなんてなかなか難しいこと。
最初は赤子のように彼にすがるかもしれない。
「いいですよ。依存してくれたって。それだけ僕は信頼されてるって証拠じゃないですか。
だからめいいっぱい頼ってください。」
「うん…っ!!」
それから私が泣き止むまで彼はずっと頭を撫でてくれていた。
それが心地良くて泣き止んでもしばらく彼にしがみついていた。
お礼の意味を込めて彼に昼食…というには遅すぎるが、ご飯をふるまった。
「美味しいです。」
そういった彼の滅多に崩さない表情に柔らかい微笑みが見えて頬が赤くなっていくのが自分でもわかった。
それを悟られたくなくって私も「ありがとう」と微笑み返した。
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