1人と独り
「どうぞー、適当に座ってて。」
彼女の家に辿り着き、リビングへと通された。
モノトーンで統一されたリビングは何だか物悲しい気持ちを表しているようにも感じた。
「…きちんとしてるんですね…」
「えー何、その言いぐさ。」
「私そんなに適当に見えるの?」と苦笑とまではいかないが義心地のない笑みで僕におどけて見せていた。
「…寂しくないんですか?」
「え…?」
「寂しく…ないんですか?」
「え、どうして?」
「だって…このリビング…生活感が全く感じられません。
だから…1人で暮らしているのかな、と…」
「すみません、深入りするようなことをして…」と謝れば彼女は先ほどの表情を崩し、「ううん。」と無表情で答えた。
「確かに、私は独りでここで暮らしてるよ…だって一緒に住む人なんていないし…」
「え?」
「…私ね、捨てられたの。」
「…」
「もっと正確に言えば、両親が離婚してどちらも違う人と再婚して…私は邪魔だからってここに置かれたの。」
「…」
「私、愛されてなかったの…っ私っいっぱいいっぱい頑張ったのに…!!父さんも母さんも…私を愛してくれなかったの…っ!!!」
僕はきっと彼女が心にためていたものを封じる蓋をあけてしまったのかもしれない。
でも、きっとこの方がよかったんだ。
彼女は僕にしがみついて泣き出した。
「美影、泣きながらでいいので聞いてください…」
ぎゅっと僕の腕の中にいる彼女がコクンとうなずいたのを見て続きを話した。
「美影は今、『1人』かもしれません。
でも、あなたの言う『独り』ではないんです。
この家ではあなたは『1人』です。
でも学校に来れば僕がいます。
だから…そんな表情しなくてもいいんです。
溜めなくてもいいんです。
僕が全部受け止めますから…」
「…っ!?……!!!!っう…!!!」
僕が言いたいことを言い終わった後、彼女の方に視線を向けるとさらに彼女は泣き始めた。
僕が言いたかったこと、伝わったのでしょうか…?
そうだといいのですが…
「あ…がとっ…わ、たしっ…いっぱい…テツにっ…依存、してしまうっよ…っ」
伝わったことがはっきりし、よかった…と一息ついて彼女の言葉に返した。
「いいですよ。依存してくれたって。それだけ僕は信頼されてるって証拠じゃないですか。
だからめいいっぱい頼ってください。」
「うん…っ!!」
それから彼女が泣きやむまで頭を撫で続けた。
その後、彼女が夕食も兼ねてご飯の準備をしてくれた。
何処かすっきりした表情の彼女を見て僕も思わず頬が緩む。
そんな彼女の料理は思いのほか美味しくて…
僕が素直に感想を言えば、彼女が柔らかい笑みで返しくれた。
彼女のその表情にドキッとしたのは僕だけの秘密です。
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