胸の鼓動が止まらない
「蒼依の新しい曲、聴いた〜?」
四月になり、ここ洛山高校にも一年生が入学してきた。
今は仮入部期間で、それぞれの部活は新入部員ほしさに勧誘で必死だった。
そんな中聞こえてきた会話。
「聞いたよ!『夢みたあとで』でしょう?」
「そう!こう…切ない感じが超好きー」
バスケの特待で来た赤い髪の彼――赤司征十郎は体育館に行く途中だった。
彼はクラス委員になり、先生に呼ばれていたため少しいつもより遅くなった。
部活も休憩時間になり、ふと先程の会話を思い出した。
「玲央、お前は『蒼依』という人物を知っているか?」
バスケをする人間にしては少し髪の長い、長身の男を玲央と呼び、彼に赤司は尋ねた。
「蒼依?どうしたの?」
「いや、先程ここに来る前に女子生徒がそんな話をしていたのを思い出してね。」
「きっとそれはニヤニヤ動画の歌い手じゃないかしら?」
「歌い手?」
怪訝そうな顔をして彼は実渕に次を促した。
「そうねー…彼女は数年前から歌い手として活動していてね。彼女は作詞作曲編曲何でも出来ちゃうの。だから、彼女が歌うのは殆ど自身で書いた曲なの。時々歌ってみたという形でカバーすることはあるけれどね。」
「それは凄いな。」
「でしょう?話題に上がってたのはきっと彼女が昨日新曲を投稿したからじゃないかしら?」
「そう言えばそんなふうに言ってたな。」
その言葉を思い出し、赤司は納得した。
「征ちゃんも家で見てみたら?」
「そうするよ。」
丁度休憩時間が終わり、そこでその話は終わった。
(いつもの自分なら気にも留めない女子生徒の会話が何故か気になった)
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