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「近藤さん!」

タッタッタ…と廊下を駆け抜ける音が聞こえたかと思うと、局長である近藤の部屋の前で音が止まった。
そして女子禁制であるはずの新選組の屯所には元気な女の声が響いた。

その姿が容易に想像できてしまった近藤はニコニコと笑い、声の主を部屋へと招き入れた。

「近藤さん!甘味を作りに行く許可をください!」

興奮気味にぐいっと前のめりになっているのは女でありながら新選組幹部である美影だ。
彼女を拾った後から毎年交わされるこの会話。
沖田命な美影は彼が慕う近藤にはこうして一つ一つ許可を取りに行っていた。

「ああ。勿論だとも!」
「ありがとうございます!」

そして彼女は来たときと同様にタッタッタ…と去っていった。

分かりきっているだろうに毎年律儀に許可を貰いに来る美影を見れば、弟弟子である沖田がどれだけ大切に思われているのかとわかる。

そんなことを考えているとこの出来事の始まりを思い出していた。




それは試衛館で暮らしていた頃まで遡る…。







「あ、あの…。」

まだ美影が来て間もない頃、彼女が一人近藤の部屋を訪ねた。
いつも沖田の側にいて一人で余り行動をしているところを見たことがないだけに驚いた。

「どうしたんだ?」
「えっと…あの…っ!」

顔を俯かせて話すその姿が何処か寂しそうで、近藤は言葉の続きを促した。

「そ、惣ちゃんにお菓子…甘味を作りたいんです!」

戸惑っていた彼女から出た言葉は甘味を作りたいということで、近藤は疑問を持った。

「何でだい?」
「えっと…今日、西洋では『バレンタインデー』っていうのがあるんです。」
「…ば、ばれんたいんでー??」

初めて聞くそれに勿論近藤は戸惑うわけで、その様子を見た美影はそのまま続けてバレンタインデーの説明をした。

「バレンタインデーっていうのは仲間や友達とチョ…甘味を作って渡したりして感謝とか気持ちを伝える方法なんです。」
「だから惣次郎に作って渡したいと?」
「はいっ!」

途端に笑顔になった女の子に近藤が許可を出さないわけがなく、快く了解の意をといた。




つまり、今日は沖田を甘味処へと近付けてはいけない訳で。
近藤は立ち上がり、部屋を出ていった。
もちろん向かう先は沖田の部屋だ。




「総司。」
「近藤さん!」
廊下から沖田を呼べば近藤の声を聞き、彼は戸を開けた。

「どうしたんですか?」

自分と話す時、ニコニコと子供のように純粋な笑みを浮かべる沖田が可愛らしく思えてつい、頭を撫でてしまう。

「近藤さん、僕は頭を撫でられて喜ぶような年齢じゃないですよ。」

口ではそう言いながらも沖田自身、とても嬉しそうなのだ。

「今日は俺と出かけないか?」
「!…あ、でも今日は…。」

嬉しそうな表情になるものの、すぐに表情を曇らせる沖田。

「む?何かあるのか?」
「今日は僕、巡察なんです。」
「あぁ、そんなことか。なぁに、トシに言って替えてもらおうじゃないか。」

そう言って一度沖田の部屋を退出していった。
珍しくそう言った近藤にぽかん、としながらもすぐハッとなり彼の後を追った。

近藤からの頼みともなれば土方はダメだと言うこともできず、巡察は土方が代わりに行くこととなった。
「近藤さんはあいつらを甘やかし過ぎだ。」と彼の言い分も聞こえたが何せ今日はバレンタイン。
可愛い妹分の為になにかしてあげたいというのが近藤である。
それを土方も解っているからこそ強くは言えないし、"あいつら"なのだ。
ましてや美影は一度惚れた相手。
お願いを叶えてあげないわけが無い。
惚れた弱みとでもいうのか、呆れていた表情から一変、苦笑を浮かべていた。

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