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「美桜花は何に乗りたい?」

園内マップを2人で覗きながら俺は彼女に訊ねた。

「…空中ブランコに乗りたいな。」


俺のオフを利用して美桜花と早乙女遊園地に遊びに来た。
美桜花は退院してから表情が日に日に暗くなった。
仕事で嫌なことが続いているのかと思ったけど、そういう訳じゃなかった。

僕達が記憶をなくす前の彼女の話をしたら凄く泣きそうな顔になるんだ。
それでやっと気づいた。

俺達は過去の美桜花にばかり目を向けていて、記憶のない彼女の心配に欠けてたのかなって。
彼女だって好きで思い出せないわけじゃない。
でも、俺達が記憶を取り戻させようと躍起になっているから、それが苦しいのかなって。

そう思って今日は連れ出した。

社長が記憶のない美桜花に気を使ってか仕事をセーブしている。
だから、彼女を連れ出すことなんか簡単に出来た。

少しでも彼女の気分転換になればと思って連れ出した。

でも俺はレンみたいにさりげなくっていうのは出来ないから、ただ今日を楽しんでもらおうと思った。


「一十木くんは乗りたいものとかないの?」
「うーん…じゃあ、あのジェットコースターに乗ろう?」

そう思っているのに、過去の彼女と来た時に乗った乗り物に乗ろうとしている俺がいて、本来の目的とかけ離れた事をしてるなと思った。

お昼はレストランで済ませて、今は閉園間近。
「最後にあれに乗ろう?」という、彼女の言葉に従い、観覧車へと足を進めた。


「一十木くん、今日はありがとう。
…私を心配して連れ出してくれたんだよね。」

美桜花にはバレバレで俺がこうして連れ出した意図も気づいていたみたい。

「俺たちはさ、記憶を失う前の美桜花にばかり目を向けて、今の美桜花に目を向けることができているのかなって思ったんだ。
"前"を知らない美桜花にとっては昔の話をされたってわからない。ふとした時に見せる苦しい表情ってそういうことなのかなって思ったんだ。」

「…確かにね、昔の私の話ばかりされると私だけ疎外感感じて寂しくなるし、苦しくなる。みんなが私が思い出すきっかけを作ろうとしてくれていることはわかってるんだけど、どうしても自分の感情が先に出ちゃう。だって人間だもの。」


俺が正直に話せば彼女からは本音が漏れた。
どれだけ俺たちは彼女を傷つけていたんだろうなと思うと「ごめん」と口から出ていた。




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