10



それから俺は時間が空けば病院へと通いつめた。


彼女の脳に異常は見られず、事故のショックで記憶喪失になったのだという。
医者に改めてそういわれ、落ち込んだのはここだけの話。




徐々に緊張感が溶けたのか前のように微笑むようになった。
そんな彼女に俺は嬉しかった。

でも、なかなか記憶が戻らない現状に悲しくもあった。



急かしたって思い出すわけじゃない。
わかってはいるけど、やっぱりそうしてしまっているらしくて、彼女が垣間見せる苦笑いで我に返るんだ。



「ねぇ、美桜花は退院したら何したい?」

「…やっぱり記憶を取り戻したい。」


何気なく聞いたことでも俺じゃどうしようもなくて会話がそこで途切れちゃう。

彼女はすぐに「ごめんね」と謝るけど、紛れもない、彼女が一番望んでることなんだって。



「…俺に出来ることがあったら言って!協力するから!!!」


いつもは何も言わない俺にびっくりしたのか最初は目を見開いたけどすぐにほほ笑んでうなずいてくれた。

















「…ねぇ、一十木君から見た私ってどんなだったの?」


退院を数日後に控えた面会ギリギリのこの時間。
彼女はぽつりとそう言った。


「俺?」
「そう。」


「そうだな…」と悩むけれど、彼女のことはどんな言葉でも表すことができないと思う。
一番言葉としてしっくりと来るのは『愛しい』…。

その言葉だと思う。


でも、今の彼女に言うのは戸惑われた。
何か直感で言ってはいけない気がして。

だから当り障りのない言葉で『大切な仲間』と答えた。



「そっか……うん、ありがとう!」


そう言って彼女は微笑んだ。






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