03.lost truth

〜Denji side〜

「は!? 今回の停電はオレじゃないし、電気だって復旧させただろ」
「デンジ捕まるのー? むっ」
「チマリはちょっと黙ってような」
「むむーっ」
「で、なんだって?」
「はい。なんでも、見たことのない大きなポケモンが浜辺に倒れているので様子を見て欲しい、と」
「ポケモンが倒れている?」
「はい。シンオウでは見かけないポケモンのようで、野生かどうかすらわからないみたいです。とにかく迫力があるらしくて、普通のトレーナーじゃ近寄れないからと」

 内心ほっとしたのは事実だ。今まで街を停電させるたびにシンオウリーグから厳重注意を受けてきたが、こうも早く連絡がきたのは初めてで、誤解が解けなければとうとうお縄にかかるのではという予感が一瞬だけ過ぎったからだ。
 ちなみに、ナギサの住民からはちょっとの停電くらいじゃ苦情は来ない。そりゃあ三年前に数日間停電が続いたときはさすがに身の心配を覚えたが、数時間の停電くらいなら「あ、またか」くらいにしか思われていないのだと思う。日常と言うより半ば諦められているに近い……自分で言っていて悲しくなってきたが、話題を元に戻そう。
 ナギサの浜辺に見たこともないポケモンが倒れているからジムリーダーとして何とかして欲しい、ということだったな。面倒だが、ナギサの人たちに頼られて悪い気はしない。それは、オレの強さを信頼しているということだろう?

「そういうことなら仕方ないか。いくぞ、レントラー」
「ガルッ!」
「チマリ達はー?」
「嵐が来る前に自主退社。鍵締めて帰っていいぞ」
「やったー!」
「リーダー……」

 定時まで十分を切っているのだから渋ってないで素直に帰ればいいのだ。これだからエリートトレーナーは真面目……。

「マジか」

 外に出たオレは絶句した。外は予想以上の雨風が吹き荒れており、軒下にいても吹き付けてくる風に流された雨で濡れてしまうほどだ。すでに体の右半分は濡れてしまい、水分を含んだ服は濃く変色してしまっているだろう。この雨を見たレントラーは自分からボールに戻っていった。おい。

「こりゃレインが用意してくれた傘は使えないし、浜辺まで行くのも一苦労だぞ……ん?」

 目を細めて曇天を見上げる。白い点が、空を飛んでこちらにやってくる。
 その正体がスワンナで、背中にレインが乗っていると認識したとき、オレの後頭部は地面とこんにちはしていた。仰向けに倒れたオレの上ではずぶ濡れのレインが何度も頭を下げている。

「ごめんなさいごめんなさい! 大丈夫!?」
「……なんとか生きているさ……まさかゴッドバード並の勢いで追突されるとは思わなかったけどな……」
「ちょうど追い風だったから、スワンナもうまく止まれなかったみたいで」
「つか、レイン、こんな雨の中を飛んで帰るなよ。びしょ濡れじゃないか」
「ノモセのほうはまだこんなに降ってなかったから、大丈夫と思って……スワンナ、ありがとう。お疲れさま」

 スワンナをボールに戻したレインはオレの上から退いて立ち上がり、右手をオレに差し出した。その手を掴んで立ち上がり、スワンナが突っ込んできたときに痛めた腹をさすると、レインが今にも泣きそうな顔で見上げてくるから、心配するなと言って頭を撫でてやる。いや、これ間違いなく痣になっているけどな。

「レインは先に帰っていろよ。オレ、今から浜辺に行かないといけなくなったから」
「浜辺? そういえば、空から見たとき何か白い塊があったような……」
「あー、たぶんそれだ。その白いやつ、ポケモンだな」
「ポケモン?」
「ああ。浜辺に見たことがないポケモンが倒れているから何とかしてくれって、ジムに連絡があったんだよ」
「……デンジ君」
「……来るな、と言っても聞かないんだろうな」

 レインの目付きが変わった。本当に、いつからこんなに強い目をするようになったんだろな。三年間で本当に強くなった。ついさっきまで泣きべそをかいていた、儚げな女は目の前にいない。

「どんなポケモンかわからないからな。気を付けていくぞ」
「はい」

 レインのことを頼もしく思える日が来るなんて、三年前のオレは想像すらしなかったのだろう。



20121009



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