01.lost truth

〜Denji side〜

 レインと入籍し、本格的な同居を始めてから、早くも半年が経過しようとしている。
 結婚式を間近に控え、式の準備に仕事にと、慌ただしい毎日を送りながらも、一人で暮らしていた頃より生活のリズムが整った気がする。朝はちゃんと起きるし、ジムには毎日行くし、飯は三食食っている。健全な生活ってこんなにも素晴らしいものだったのか、としみじみ思う。
 ああ、朝日が眩しい。

「デンジ君」
「準備はできたか?」
「ええ。お待たせ。出ましょう」
「昨日は孤児院のほうに呼ばれてたけど、今日はいつも通りノモセジムの方に行くんだっけ?」
「ええ……あ、ちょっと待って」

 何か忘れ物でもしたのか、レインは再び家の中に戻っていった。
 レインは、ナギサの孤児院で仕事をする傍ら、ノモセジムでジムリーダーになるための勉強をしている。そんな生活を続けて約三年、いや、間の半年はオレとイッシュに行っていたから約二年半。
 レインには内緒だが、マキシさんがレインの推薦状をシンオウリーグに出したと聞いたので、彼女に協会から声がかかるのも時間の問題だろう。すぐにジムリーダー試験を受けることになる。
 レインのことだから、筆記試験も、面接も、実技試験も問題ないだろう。努力が報われたとき、あいつはどんな顔をするのか楽しみで仕方がないし、傍で喜びを共有できることが何よりも嬉しい。

「ごめんなさい。デンジ君、はい」

 再び家から出てきたレインの手には二本の傘が握られていた。

「夕方から雨が降るみたいだから」
「そうか。サンキュ。レインの天気予測は外れないからな」
「波導のおかげよ。でも、結構強い雨みたいだから、海が荒れそう。気を付けてね」
「レインこそ、帰れそうになかったら連絡しろよ? 車で迎えに行くし」
「ありがとう。じゃあ、行ってきます」
「ああ。気を付けてな」
「デンジ君も、いってらっしゃい」
「いってきます」

 いってきます、いってらっしゃい、のキスもすっかり日常に溶け込んだ。
 スワンナに乗って飛んでいくレインを見送ったあと、ナギサジムに向かうべく歩き出した。まだ少し早いから、海沿いを歩きながらゆっくりと行こう。今日はレントラーを出して一緒に歩こうか。

「今日も海が綺麗だな」
「ガルッ」

 この海が、レインの言ったとおりあんなにも荒れるなんて。そして、新たな非日常を運んでくるなんて。こんなに穏やかな海を前にしては予想すらできなかった。



20121006



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