35.N

 『キミたちはボクの光だ』と、そう言った彼の声が、鐘の音のように頭の中で響き続けている。
 蒼穹に彼とレシラムの姿はもう見えない。それでも私は、彼らが飛び去った蒼穹をずっと見上げていた。

「レイン」
「……」
「そろそろ中に入ろう。冷えるぞ」
「……デンジ君」
「ん?」
「私は……彼に何かを残せたのかしら」
「……ああ。だから、あいつは言ったんだろ。光だ、って。なぁ」

 泣くなよ。優しい言葉と共に肩を掬うように抱かれた。泣いていることを自覚してから、ますます涙が溢れ出てきた。
 私はデンジ君に救われた。彼が、真っ暗な深海のような場所にいた私を、眩しい太陽の下に連れ出してくれた。N君にとって私は、少しでもそういう存在になれたのかな。
 嬉しさと、少しの寂しさが胸に残っている。
 私のほうこそ、ありがとう。どうか、水平線の向こうで貴方が貴方の大切な人と再会できますように。
 ずっと、ずっと、祈っている。



「N」END 20130414



- ナノ -