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33.eternal shine
〜N side〜
「ナギサを発とうと思うんだ」
ナギサの浜辺でそう言ったボクに、二人はさほど驚いた様子は見せなかった。寧ろ、深く納得するように頷いてみせた。
「……そう。なんとなく、そんな気がしていたわ」
「レイン」
「ええ」
レインはボクに、二つのモンスターボールを差し出した。意味を理解しかねるままそれを受け取る。
ボクの両手のひらに二つ分の重みが移った瞬間、モンスターボールが弾けた。出てきたのは、二匹のイーブイだった。このイーブイたちには見覚えがある。
「この子たちは……」
「孤児院で育てていたイーブイと、シャワーズのタマゴから産まれたイーブイよ。よかったら、この子たちをN君の旅に連れて行って欲しいの」
「でも……いいのかい?」
(うん。シャワーズはレインちゃんと旅をしてたくさんのことを知れた。だから、この子にもたくさんの世界を見せてあげて欲しいよ)
「……わかった。ありがとうシャワーズ。イーブイたち、これからよろしく」
イーブイ達を再びモンスターボールに戻し、蒼穹を仰ぐ。雲一つない空を、真っ白い影が横切った瞬間、風がボクらの髪をなぶった。
離れていたのはほんの一ヶ月程度なのに、遠い昔に離れた級友と再会したような気分だ。
「レシラム。おかえり」
(……ただいま、N)
ボクはうまく『おかえり』を言うことができたのだろう。だって、レシラムがこんなにも嬉しそうに笑ってくれるのだから。
世界中を渡りながら、もっとたくさんのことを話そうと思う。離れて過ごした間に起きた出来事は、きっと一晩では語り尽くせない。
さあ、デンジとレインに別れを告げる時間だ。
「デンジ。レイン。キミたちとキミたちのトモダチ……そしてナギサシティからはたくさんのものをもらった。キミたちと過ごす中で人間とポケモンがどう在るべきかボクなりの答えが見つかった気がする。その答えを確かなものにするためにボクはもっとたくさんの人間とポケモン達に会ってさらに世界を広げるよ。今まで本当にアリガトウ。それじゃ……サヨナラ!」
「待って!」
レシラムに乗ろうとしたボクをレインの不安げな声が引き止めた。
「今の別れの言葉……私はあまり好きじゃないの」
「え?」
「さよなら、なんてもう二度と会えないみたいだもの。もし、N君が今までそうやって誰かに別れを告げてきたのなら……その人はもしかしたら傷付いているかもしれないわ」
ぐらり、眩暈がしたような気がした。ボクがレシラムに乗って、イッシュ地方を逃げるように飛び去る直前に、トウヤとトウコが浮かべた表情の意味が、少しだけわかった気がする。
でも、他に別れの言葉なんてボクは知らない。
「ゴメン。こういうときは他にどう言ったらいいのか……」
「またね、とか、いってきます、とか。そういう言葉が良いと思うの」
「……いってきます。デンジ、レイン」
「ああ。またな」
「いってらっしゃい。N君」
喉の奥に熱い何かがこみ上げてきた気がして、帽子のツバを引き下げて目元を隠した。
トモダチ以外のことで泣いたことがボクにはない。今だって目は乾いているのに、何故だろう、唇が震える。
「N君……?」
「……デンジ、レイン。キミたちはボクの光の一部だ。だから……知って欲しい。ボクのことを」
他人に自分のことを知って欲しいと思ったのは、これが初めてだった。
「eternal shine」END 20130403