27.reason of life

〜N side〜

 池の近くの草原に敷かれた星柄のレジャーシートの上には、レインが朝早くから起きて作ってくれていたお弁当がずらりと並んでいる。中でもピカチュウおにぎりは完成度が高く、食べてしまうにはもったいないくらいだ。

「じゃあみんな、出てきて!」
「おまえたちも、出てこい!」

 デンジは草原に、レインは池にポケモンたちを呼び出した。我先にとポケモンフーズに貪りつく彼らの中に、あの二匹がいない。

「あれ? シャワーズとサンダースは?」
「あの子たちはお留守番なの。シャワーズの具合が悪いらしくて……本当は今日のお出かけもやめようと思ったのだけど、前からみんな楽しみにしていたから行ってきてって、シャワーズが言ってくれて」
「オレのサンダースが付き添いとして残った、ってわけだ」
「そう……大したことないといいね」

 そういえばここのところ、いつも元気なシャワーズが大人しかったような気がする。暇さえあれば昼寝をしているようだったし、ご飯をたまに残しているところを見かけた。
 レインは念のため、シャワーズをポケモンセンターに連れて行ったらしいが、どこにも異常はないと診断されたらしい。本当に何ともないといいのだけれど、シャワーズ自身が大丈夫だと言っているのなら、大丈夫なのだろう。あの子は痛みを一人で抱えるような子ではないから。
 レインが作ってくれたお弁当をつまみながら、周辺の風景を眺める。自然が溢れるこの広場には、たくさんの人とポケモンが居る。その中で、新しい出会いが生まれる場合もある。新しい絆、繋がりを生む場所。

「ここはただトレーナーとそのポケモンが触れ合うだけの場所ではないんだね。トレーナー同士、ポケモン同士、そしてトレーナーとポケモン……ここにいる全ての命が触れ合って新しい繋がりを作っているように思える」
「なるほどな。命が触れ合う場所、か」
「その考え方、すごく素敵ね。私もそう思うわ」

 異なる種族、異なる命が触れ合い、互いの存在を認識する場所。新しい出会いは各々に化学反応を起こし、各々の世界を広げるのだ。
 こんな場所が他の地方にも増えたらきっと、人とポケモンはさらに仲良くなれるのではないかと思う。ここなら、バトルが苦手な人やポケモンでも関係ない。なにも、バトルだけが互いを理解し合う術ではないのだ。
 大切なのは日頃からのコミュニケーションで信頼関係を構築することなのだろう。この場所にいると、真っ白な気持ちで自分以外の命に触れられるような気がした。


 * * *


 家の鍵を開けて、真っ先に中へ飛び込んだのはレインだった。やはり、シャワーズのことが心配だったらしい。
「シャワーズ、サンダース。ただいま」(あ、レインちゃん達だ! おかえりなさい!)(おかえり)「シャワーズ、具合はどう? おみやげのポフィンを買ってきたのだけど、食べられるかしら?」(うん! もう大丈夫だよ! ありがとう! ねぇ、見て見て!)「え? なぁに? ……!!」「なんだよ、どうした……!!」
 レインとデンジの声が途中で途絶えたので、どうしたのだろうと思いながら、遅れてボクもデンジのポケモンたちの部屋に入る。

「なに? デンジまで………え?」

 シャワーズは『何か』を大切そうに抱き抱えるようにして、ブランケットが敷かれたバスケットの中で丸くなっている。その『何か』に、ボクは見覚えがあった。楕円形に滑らかな曲線を描いたそれは、間違いなく。

「ポケモンのタマゴだ!」
「まさか、シャワーズとサンダースの!? おめでとう!」
(えへへ、ありがとう)

 すごい。ポケモンのタマゴを見たのは初めてではないけれど、何度見てもこの感動は褪せない。あの殻の中で、今は未だ小さな命が、生きようと必死に鼓動をうっているのだ。そう考えただけでも、とても愛おしい。
 シャワーズに「触れてもいいかい?」と許可をとると、レインが「私も」と言うので、二人でタマゴに触れた。あたたかい。命の、温度だ。密かに感動しているボクの隣では、レインが微かに目を潤ませている。きっと、新しい命と対面するとき、レインは泣くのだろうな。
 ただ、デンジだけは何故か少しだけ悔しそうに「サンダース、おまえしれっとしているように見えていつのまに……」と呟き、それにはサンダースが得意げな声で鳴き返していた。



20130216



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