26.reason of life

〜N side〜

 まるで真っ白なキャンパスに青い絵の具をこぼしたような蒼穹の下では、人間やポケモンたちの笑い声が響いている。水辺で遊んだり、広場で追いかけっこをしたり、花を摘んだり、木の影で食事をしたり、みんな思い思いの時間を過ごしている。
 ここはヨスガシティの北部に位置する大きな公園、ふれあい広場だ。

「いいお天気。晴れてよかったわね」
「ああ」
「ここがふれあい広場? ふれあい広場って何をするところなんだい?」
「えっとね。簡単に言うと、見ての通り、ポケモンと一緒に遊べる公園よ。街中だと大きなポケモンはモンスターボールに入れておかないといけないけれど、ふれあい広場だと一緒に遊べるのよ」
「……」

 困ったように笑うレインを見なくても、自分で表情を曇らせてしまったことがわかった。

「ポケモンをモンスターボールに入れないといけないということが、ボクはおかしいと思う」
「……そうね。でも、例えば体が大きなポケモンは常に人間と一緒にいられるわけじゃないでしょう? 人間と一緒にいたいから、ポケモンはモンスターボールに入ってくれているんだと思う。そうすれば、いつも一緒にいられるから」

 どちらかというとレインやデンジは、ポケモンたちを自由にしている部類のトレーナーだと思う。デンジのポケモンは家の中ではモンスターボールから出ているし、レインのポケモンは家から見える海に放されている。やはり、モンスターボールの中と外とどちらがいいかと問えば外がいいらしいので、なるべく外で過ごさせるようにしているそうだ。特にレインのシャワーズはモンスターボールが嫌いらしく、空を飛んで移動するとき以外は常に外に出しているらしい。
 しかし、中にはポケモンたちをほとんどモンスターボールの中に入れているトレーナーもいることだろう。ポケモンにとっては、ある意味安全なのかもしれない。それがいいのか悪いのかわからないが、ボクは自分のトモダチをモンスターボールに閉じこめておくという行為がどうしても好きになれない。しかし。

「そうだね。ポケモンは人間より強い。モンスターボールを本気で嫌がればいつだって逃げ出せる。それをしないということは」

 つまり、そういうことなのだろう。
 ポケモンがモンスターボールの中に入ることを受け入れているということは、そのポケモンがモンスターボールの中に入るのを好きなのか、あるいは、トレーナーのことを信頼しているからの、いずれかなのだろう。しかし、何らかの事情で嫌々ながらモンスターボールの中に入れられているポケモンだって少なくはないはずなのだ。
 ボクの心情を察したレインがふわりと笑った。

「でも、いつかモンスターボールなしでも人とポケモンが繋がり合う世界ができるといいわね」
「……そんな世界を作れるかな」
「きっと。そもそも、大昔はモンスターボールなんてなかったもの」
「……それもそうだね」
「おーい。この辺でいいか?」
「ええ! N君も、行きましょう」
「うん」

 草原にレジャーシートを広げているデンジの元に向かう。今は難しいことを考えるのは止めにしよう。幼い頃にボクとトモダチが過ごした森に似た香りがするこの場所で過ごす休日を、ただ楽しもう。



20130209



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