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25.one's strength
〜N side〜
レインの答えを最初からわかっていたように、デンジは微かに笑って頷いた。反対に、オーバは立ち上がって目を見開いている。
「え!? マジ!?」
「ええ。四天王になったら、思うように動けなくなりそうだから……もちろん、四天王になるだけの力があると評価していただけたのはすごく光栄なのだけど……ジムリーダーになれない今のままでも、ポケモンや人と関わることはできるもの。今のまま頑張るわ」
「……そうか。レインがそう決めたなら、オレは応援するだけだ」
「ありがとう」
微笑みあうデンジとレインとは対照的に、オーバは何故か俯いている。レインが自分と同じ地位を断ったことがそんなに寂しかったのだろうか。
オーバの異変に気付いたレインが「オーバ君?」と心配そうに顔を覗き込むと、オーバは勢いよく顔を上げた。
「おめでとう! レイン! ジムリーダーに合格だ!」
「え?」
これほどボクたち三人の反応が揃ったのは、森の洋館以来だろう。オーバが一人で愉快そうに笑っている意味が全くわからない。笑っていないで説明しろとデンジがオーバの肩を叩くと、ようやくオーバは語り始めた。
シンオウリーグの上層部は、レインとゴヨウという四天王の実技試験を見ているときにレインの合格をすでに決めていたらしい。しかし、ジムリーダーとしておくには惜しい実力と能力を評価し、四天王として合格ではどうかと問うた。そこで、レインが首を縦に振れば四天王に、横に振ればジムリーダーにするつもりだったのだという。
レインはいったん返事を保留にしてナギサへと帰ったから、オーバは様子見としてここに来たらしい。
「ただ、今はジムリーダーが足りているから、マキシさんが不在中の代理ってことになるけどな!」
「そういうことかよ……」
「ああ! そういうことだ! お偉いさんたちはちゃんと話しとくぜ。レインがジムリーダーになりたい気持ちは本物だった、ってな」
「……私が……ジムリーダーに……」
数回瞬きを繰り返したレインの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちてきた。泣いているのに、笑っている。ボクが今まで生きてきた中で、こんな表情は初めて見た。なんて優しく、美しい表情なのだろう。
「どうしよう……すごく嬉しい……」
「全く。泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「だって……」
「よーし! じゃあ、仕切り直しだな! 俺ちゃんと酒買ってきたんだぜ! Nは飲めるのか?」
「わからない。飲んだことがない」
「成人してんだろ? よし! 飲め!」
「おい、潰すなよ。こいつ絶対酔ったら面倒くさいタイプだ」
「ふふっ」
初めての飲酒に少しばかりわくわくする。でも、今日の主役はレインだ。飲んだらどうなるかわからないし、迷惑をかけるといけないから、最初の一口だけ頂くことにしよう。
全員に酒が行き渡ったところで、視線がレインに集中する。もう、彼女の目に涙はなかった。
「レイン! ジムリーダー合格おめでとう!」
ポケモンと人間が共存し続ける世界のために。自分だけの真実を見付けたレインと彼女のトモダチは、どこまでも強く、優しい架け橋となるのだろう。
「one's strength」END 20130130