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20.play with me!
〜DENJI side〜
「やっと捕まえた……」
格闘の末に、光の壁を作って閉じこめるという荒削りな方法でロトムを大人しくさせることに成功した。いや、大人しくはなっていないな。光の壁の中にいるロトムは未だにケラケラと笑っている……イラッ。
「おい。散々弄んでくれたな? オレたちが来る前も人間に悪戯を仕掛けていたらしいじゃないか? どういうつもりだ? ああ?」
「デンジ。トモダチを虐めるのはよくない」
「虐められているのはどっちだよ!」
Nの髪は未だに逆立ち爆発している。頼むから直そうとする努力だけでもして欲しい。シュールすぎる。
「デンジ君」
「ん?」
「ロトムだけど、人間の驚いた反応を見るのが楽しかった……って言っているわ」
「……ほう。どうやら口で言ってもわからないらしいな」
「で、デンジ君」
「ぷっ」
突然、Nが吹き出した。それがオレに対してのことならばNも一緒にシメあげてやろうと思ったが、どうやら違うようだ。というより……Nが笑ったところ、初めて見たかもしれない。
「……あはは。驚いた。そういう理由で人間に関わりたがるポケモンもいるんだね。初めてだよこんなこと。さっきのバトルだってまるで遊んでいるようだった……あはは」
まだ少しの間だが、Nと生活を共にしてわかったことがある。その瞳こそ光を失っているが、Nは元々感情表現が豊かなのだ。些細なことで、驚いたり、怒ったり、悲しんだり、常に真っ直ぐな感情をぶつけるのだ。
その中で、喜んだり楽しんだりする感情だけは、今までの生活からは見られなかったので、こいつにもそういう感情があることに少なからず安心した。
「デンジ君。ここは幽霊屋敷と言われていて人があまり来ないから、ロトムは寂しくて遊び相手が欲しかったんじゃないかしら」
「……」
「ね? 許してあげましょう」
「……はぁ。逃がしてもまた悪戯を続ける気だろ? それなら、オレたちと来ればいい。屋敷の外は好奇心をそそられるものばかりで悪戯なんてする暇はないぞ。きっと」
オレがそう言うと、ロトムは体を揺らしながらコクコクと頷いた。光の壁を解いてやると、オレが差し出した空のモンスターボールに自ら入っていった。レインも、Nも、嬉しそうだ。
さあ、これでナタネにも胸を張って報告ができるというものだ。
「これで一件落着だね」
「ええ」
「全く。女の子の笑い声の幻聴を聞かされたり、霜を浴びせられたり、散々だったけどな」
「……え?」
「……嘘」
ロトムのボールがカタカタ揺れると、レインとNの顔から表情が消えた。なんだよ。ロトムは何を言ったんだよ。
「デンジ君……ロトム、女の子の話は知らないんですって」
「自分じゃないと言っているね」
「え……?」
『クスクス……』
あの声が、聞こえた。耳の奥にいつまでも残っている、幼い女の子の笑い声。ギギギと無理矢理首を動かして、立ち去ろうとした部屋の中を振り返る。
そこに、白いワンピースを着た女の子が、いた。その子の体は、半透明で、体の向こう側が透けて、見えて。
『こんどは、あたしとあそんでね』
オレがレインとNの腕をひっ掴んで、全力疾走したことは言うまでもない。
「play with me!」END 20120112