16.sweet home
〜N side〜
(N! はやく、つぎ!)
(つぎ、なげて)
「い、いくよ……それっ」
(わーい!)
ボクはボールを放り投げると同時に膝から崩れ落ちた。ボクがボールを投げて、コリンクとイーブイがそれをとってきて、またボクがボールを投げる。
それを繰り返しているだけなのにどうしてこんなに疲れるのだろうか。軽く息切れまでしている。主にボールを投げている左腕が痛い。明日はきっと筋肉痛だ。
(N。こんどはあたしがとってきたのよ)
褒めて、と言わんばかりに得意げな表情でボールをくわえて戻ってきたイーブイを見ると、疲れが吹き飛んでしまう……とまではいかないけれど、もっと遊んであげたくなる。無邪気で可愛いな、と思う。
子供は遊ぶことが仕事だというがその通りだ。たくさん遊んで、いろんなものを見て、いろんな経験をして欲しい。それらはいずれ自分に返ってくる。
「ボクも昔はあんな感じだったのかな……?」
ボールを取り合ってじゃれ合っている二匹を見て、何気なく呟いた自分の一言に強烈な違和感を覚えた。意識しないようにしていたのに、自覚したときはすでに遅く、ボクの思考は色の洪水に飲まれていく。
ボクがあの二匹みたいに子供らしい子供であったのかなんて、笑わせる。ゲーチスから与えられた玩具箱のようなあの部屋こそが、ボクの世界。あの部屋はあの城の中でも異質で、ボクが二十歳になるまで決して出ることを許されなかった。今となってはあの世界が、あの世界で生きてきたボク自身が、どれだけ歪んでいたかがわかる。そして、あの世界で、出会った、ポケモンたちが、どれだけ憎しみと恐怖を持ち、どれだけ救いを求めていたか。
「……っ!」
ボクは彼らに、なにをしてあげられたのだろうか。
20121223