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15.sweet home
〜N side〜
ナギサシティのシンボルである灯台の麓に、その建物はあった。 一目で病院とわかる建物と並列して建ててあるそれ――孤児院は、一見すると少し大きな幼稚園のようにも見える。門を通ってすぐにある庭には砂場や遊具があり、子供が遊べるようになっている。
「ここがレインが育ったところなのかい?」
「ええ。今日はN君に孤児院のお仕事をお手伝いしてほしいの」
孤児院に入り、こぢんまりとしたロビーを通過して廊下を歩いていると、途中でいくつか扉が開いている部屋があった。中をちらりと見てみると、チマリよりも幼い子供たちが絵を描いたり本を読んだりしていた。中にはポケモンと一緒に遊んでいる子供もいる。
「ここには、それぞれ理由があって家族がいない子供たちが住んでいるの。それから、こっち」
レインに通された部屋に入った瞬間、思わず息を止めた。その部屋は、ボクが今まで過ごしていた部屋と酷く似ていたからだ。カラフルな色合いの玩具箱のような部屋は、子供ならきっと喜ぶのだろう。
ボクは平常心を保つことに努めようとして、大きく深呼吸した。そうでもしないと、色の洪水に飲まれてしまいそうだから。
「N君?」
「なんでもないよ」
「そう……?」
レインは不思議そうに首を傾げたが、それ以上の詮索はしてこなかった。
レインは部屋の真ん中まで歩いていくと、そこでボール遊びをしていたコリンクとイーブイを抱き上げた。二匹とも、子供と言うよりはまだ赤ん坊に近い。
「まだ赤ん坊だね」
「ええ。この子はトレーナーから置き去りにされ、この子は怪我しているところを保護されてここにいるの。ここにいるポケモンたちは、みんなそんな子たちばかりよ」
よく見ると、コリンクの足の付け根あたりには傷の跡があり、そこだけ毛が薄いようだ。
「N君にはこの子たちと遊んでもらいたいの」
「遊ぶ? それだけでいいのかい?」
「ええ。本当は、人の子とポケモンの子は一緒に遊ばせて、一緒に生活させているのだけど、この子たちは特に幼いしここに来たばかりで人間に慣れていないから。でも、人間と仲良くしたいって気持ちはあるみたいなの」
(僕たちと遊んでくれるの?)
「ね?」
コリンクだけではなく、イーブイも「あたしとも遊んで」とでも言うような甘えた眼差しでボクを見上げてきた。
ボクはレインから二匹を受け取って、腕に抱いた。両腕の中に簡単に収まってしまう小さな命たちが、酷く愛おしく思えた。
「ボクでよければ」
「ありがとう! N君になら安心して任せられるし、この子たちも喜ぶわ。じゃあ、私は別の部屋でお仕事をするけど……あ、困ったことがあったらあの子。ウインディに聞いて。あの子はみんなのお兄さんだし、ここに長くいるから何でもわかっているの。じゃあ、よろしくね」
そう言ってレインは部屋から出ていった。
窓から見える庭には、確かにウインディがいる。遊具で遊んでいる子供やポケモンたちを、ここの職員たちと一緒に見ているようだ。
ボクはウインディに違和感を覚えた。この施設にいるポケモンたちは、まだ幼かったり進化前だったりする子たちばかりなのに、あのウインディは人間でいうと十代後半くらいだし、進化だってしている。
(ねえ!)
「ん?」
(遊ぼう!)
腕の中からキラキラした目で見上げてくる二匹を見ると、やはり、ポケモンは愛おしい存在だということを改めて実感した。この子たちと一緒なら、あの部屋に似たこの場所でも息ができる気がする。
20121216