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13.make peace
〜N side〜
レインに言われたとおり、リビングのフローリングに掃除機をかけた後、掃除機をどこにしまえばいいのか悩んでいると、観葉植物に水をあげているシャワーズと目が合った。
「あの……」
(なに!?)
「掃除機はどこに片付けたら……」
(あっち!)
「……アリガトウ」
シャワーズは掃除機をしまう場所を教えてくれたけれど、その言葉一言一言に苛立ちが含まれていることはどんなに鈍感な人間にだってわかるだろう。さらに、シャワーズがボクに対して何故こんなに刺々しい態度をとるのか分からないほど、ボクは鈍感じゃない。
「……あのときボクが言ったことを怒っているかい?」
(何のこと!? 知らない!)
これは覚えているな、と思った。
一年ほど前、イッシュ地方でレインとシャワーズ、それからデンジとシンオウ地方四天王のオーバに出会したときにボクが言った言葉が、シャワーズをこんな態度にさせてしまっているのだ。
「ゴメンね」
(………)
「キミの大切なトモダチにヒドいことを言った。本当にゴメン」
『可哀想に。彼らを庇うように躾られているのかい? それとも彼らを守らないと後から酷い目に遭わされるのかな?』
(シャワーズ、本当に嫌だったんだよ。大好きな人たちのことをあんな風に言われて、ショックだったんだよ)
「……うん」
(レインちゃんはすごく優しくてすごくいい人だもん。シャワーズが生まれたときからずっと一緒にいてくれているもん。大好きだから、守りたいって思うんだもん)
「……ゴメンね」
(今のシャワーズたちも、まだあんな風に見える?)
ボクは静かに首を横に振った。
(あなたが言いたかったこともわかるの。シャワーズみたいに、全てのポケモンが恵まれているわけじゃないって知っている。シャワーズは生まれてから今まで優しい人間に囲まれていたけど、そうじゃないポケモンもいるってわかっている。ポケモンを悪いことに使おうとする人間だって、見たことがある。でもね、シャワーズはレインちゃんやみんなの傍にいられてとっても幸せなんだよ)
今にも泣き出してしまいそうなシャワーズの瞳に映るボクは、シャワーズと同じ表情をしていた。だって、シャワーズがレインのことを想う気持ちがこんなにも伝わってくるから。
ああ、どうしてあのとき、この子の言葉に耳を傾けてあげなかったのだろう。なにも聞かなくてもわかったつもりになっていて、全然わかっていなかったんだ。
しばらく無言が続いた。ボクは「ゴメン」と言う以外に言葉が思い付かなかったし、シャワーズは顔を伏せてしまっていてボクの言葉すら拒絶しているように感じた。
この子が抱いている蟠りを消すことはできないのかもしれないけれど、ボクはまた謝罪を紡ごうと口を開きかけたそのとき、シャワーズが顔を上げた。
(あれからね、シャワーズ、レインちゃんと話し合って、マスターじゃなくって名前で呼ぶようにしたんだ。だって、レインちゃんを名前で呼ぶと、とっても嬉しそうにしてくれるし、もっと仲良くなれた気がするから)
「名前を……?」
(うん。これはあなたの言葉がきっかけだって、レインちゃん言ってた)
貴方に出会えて世界が広がった、とレインはボクに言ってくれた。これも、その変化の一つなのだろう。
ああ、シャワーズが笑いかけてくれただけなのに、本当に泣いてしまいそうだ。
(仲直りしよう?)
「!」
(シャワーズ、あなたのことを理解できるようになりたい。だから、あなたにもシャワーズたちのことを知ってほしいよ)
「シャワーズ……」
(これからしばらくよろしくね。N君)
「……うん。よろしく、シャワーズ」
シャワーズがボクにいろんなことを話してくれていると、洗濯物を干し終えたレインがリビングに入ってきた。お喋りをしているボクらを見て柔らかく笑うと「なにをお話ししていたの?」と微笑ましそうに問いかけてくる。ボクとシャワーズは目を合わせると、同時に「内緒」と言ってクスリと笑った。
「make peace」END 20121122