08.lost truth

〜Denji side〜

「N君。貴方たちはどうしてあんなところにいたの?」
「あんなところ……?」
「ここはイッシュから遠く離れたシンオウ地方。貴方は海で溺れていて、レシラムは近くの浜辺に倒れていたの」

 レインはまるで幼い子供と話すようにゆっくりと言葉を紡ぐ。Nが抱いているであろう警戒心や不安感を取り払うかのように、ゆっくりと、ゆっくりと。
 Nはオレと変わらないくらいの長身だし、童顔ではあるが成人はしていると思う。それなのに、Nを見ているとまるで迷子の子供を見付けたときのような気持ちになってしまう。
 だからこそ、レインはNに対してこんな態度で接するのだろうか。ひどく優しく柔らかい眼差しを、向けるのだろうか。

「ボクは全てを失ったんだ。帰る場所も慕ってくれていた仲間も夢もトモダチも。いや。もともと全部無かったのかもしれない。ボクは幻想の中を踊り続けていただけ。誰かの掌の上で踊らされるままに真実を求め続けた。その結果ボクはたくさんのトモダチを傷付けた」

 堰を切ったように、Nの口から次々と言葉が吐き出された。早口な上に息継ぎをしないものだから、聞いているこちらが息苦しさを覚えたが、話し終えたNは少しも表情を崩していない。これがきっとデフォルトの喋り方なのだろうと察した。
 変な奴だ。喋り方を含め、話した内容も意味が掴めない。ただ分かったのは、Nは自分を孤独だと思い込んでいるということだ。

「何があったのかわからないけれど……貴方は全てを失ってなんかない。貴方は独りなんかじゃないわ。貴方をこんなに心配してくれているレシラムがいるじゃない」
「……レシラムが」
「それに、誰かの掌の上だとしても、真実を求めていたのは貴方の意志でしょう?」
「……」
「後悔しているの?」
「……後悔はない。ボクは間違っていない。だからといって正しくもない。ボクは変わらなくちゃいけないんだ。ボクを止めてくれた彼らのためにも」

 レインはうん、うんと頷きながらNの言葉に耳を傾けている。
 オレはというと、このNという男の姿がはっきり見え始めたところだ。朧気だった輪郭が、話を聞くに従ってしっかりと形を成していく。ああ、そうか。

「異なる考えを否定するのではなく受け入れることで世界が化学反応を起こすのならボクはたくさんの世界を見たい。いろんなポケモンや人が暮らす世界を。そしてボクなりの新しい真実を見つけたい。そのためにここまできた」
「あー、思い出した」

 カチッ、と記憶のピースが嵌った瞬間だった。

「おまえ、ポケモンと人とを切り離すとかなんとか、戯れ言をほざいていたやつか」



20121026



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