05.lost truth

〜Denji side〜

 男を家に運び、とりあえず濡れた服を脱がせてオレの服を着せた。意識のない人間を動かすというのはなかなかの重労働で、エレキブルの助けを借りながらようやく着替えさせることができたといったところだ。
 さらに、タオルで濡れた髪を拭いたあと、男を空き部屋に連れて行くと、すでに着替えを済ませたレインがフローリングに来客用の布団を敷いているところだった。男を適当に転がしておくようエレキブルに言って、オレは自分の着替えを済ませるべく部屋を出た。

「ん?」

 Tシャツと短パンに着替えて髪をタオルで拭いているところで、玄関からチャイムが聞こえてきた。インターホンから来訪者を確かめる。ああ、心の底から助かったと思った。

「レインに呼ばれて来てくれたのか?」
「ミィミィ!」
「ありがとな。ほら、濡れるから入りな」

 来てくれたのはレインのタブンネだった。なぜタブンネが来てくれたのかというと、タブンネは病人や怪我人の状態を診ることに長けているからだ。
 タブンネはレインのバトルメンバーではないが、レインの父さんが院長を務める病院で働いている。その能力は、戦うより誰かを助けることで本領を発揮できるのだ。
 イッシュ地方からシンオウ地方に連れてきてからここ数ヶ月で、タブンネはとても明るくなった。前のトレーナーから経験値上げの道具として使われていたときとは比べものにならないほど、今のタブンネは生き生きしている。
 元々、タブンネの性格はバトルに不向きだったと言える。レインはタブンネの新しいトレーナーとして、新しい道をタブンネに示し選ばせた結果、それはいい方向に向かったのだ。

「タブンネが診てくれるなら、安心だな」
「ミィ」

 雨が弱まり始め、傘を差してきたとはいえ、急いで来てくれたのだろう。タブンネの体を覆う淡い色の短毛はしっとり湿っているようだ。タブンネの頭にタオルを被せ、わしゃわしゃと撫でながら廊下を歩く。タブンネはくすぐったそうに声を上げたが、大人しくオレに拭かれていた。

「レイン。タブンネが来てくれたぞ」
「ミイミ!」
「タブンネ。さっき父さんに連絡したのに、早かったわね。急いで来てくれてありがとう。この人なの」

 タブンネは布団の上で横になっている男を見ると、先ほどまでの笑顔を消した。
 男の傍らにさっと跪き、大きな耳から生えている聴診器のような触覚を伸ばし、それで男に触れる。タブンネという種族は並外れた聴力を持っており、触覚で触れた相手の心音から、体調や気持ちが分かるらしいのだ。
 この男は、タブンネが診てくれるとして、だ。

「レシラムのほうはどうだ?」
「少しずつ波導を分けているから、大丈夫だと思うわ。伝説のポケモンだから体力値が高くて、全快するまでもう少しかかりそうだけれど」
「そうか」

 レインの手の中にある、レシラムが入っているモンスターボールが青白く光っている。レインが波導を使っている証だ。
 浜辺で見たところ、レシラムに目立った外傷はなかった。ただ単に体力が落ちていただけならば、ポケモンセンターや病院へ行かずとも、レインの波導で何とかなる範囲内だ。
 それに、ポケモンセンターへ連れて行こうとしても、この男の身を案じるレシラムがそれを拒むのだろう。この男の傍にいたい、と。



20121018



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