ちぐはくなココロとカラダ

「……」

これは夢だ。夢に違いない。体を起こした瞬間にそう判断したあたしの脳は、それ以上考えることを止めた。
再び体をベッドに沈めて毛布を頭から被る。あれ?この季節に毛布なんて使っていたっけ?それに、パジャマで寝たはずなのにどうして素足同士が擦れ合うのだろう。あたしはワンピースタイプのパジャマなんて持っていないはずだ。
ああ。そうか、夢だからか。夢なら、なんでもいいや。
見慣れないパジャマも、見慣れない部屋も、見慣れないベッドも、聞き覚えのないポケモンの鳴き声も、全部全部、夢。そう、夢。

「ン……イン……」

遠くで男の人の声がする。ダイゴだろうか。なんだかいつもより少し声が低い気がするけれど、喉の調子でも悪いのだろうか。
とりあえず、早くあたしを起こして欲しい。この妙に現実味のある夢から、目覚めさせて欲しい。

「レイン」

今度ははっきりと聞こえた。レイン?外は雨でも降っているというのだろうか。
ノロノロと毛布から顔を出した。寝室へと入ってきた人物を見て、いよいよこれは夢なのだと本気で思った。だって、そうでなければ、ホウエンから遠く離れたところにいる、シンオウ地方ナギサシティのジムリーダーが、デンジが、いるはずがない。

「もう朝だぞ」
「……」
「おはよ」

デンジは、酷く優しい声で、柔らかく笑って、あたしの頬に手を添えて、その無駄に整った顔を近づけてきて……って。

「いくら夢でもダイゴ以外の人とキスなんてイヤーっ!!!」

バチーン!という強烈なビンタ音が響いた直後、遠くから電話の呼び出し音が聞こえた。





2019.3.31

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